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都市伝説・・・奇憚・・・blog

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ー赤い枠ー <オオ○キ教授シリーズ>

2018.01.20 (Sat) Category : 創作作品

392:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:46:32ID:M8Ukg23i0
赤い枠 1/13

岡山の支部で成績1、2番を争っていたというエリート営業マンが、この小さな支店に転勤してくると聞いて、俺たちは戦々恐々となった。
のんびりした支店の空気が乱されるんじゃないか?ハードな営業方法に切り替わって、ついていけなくなった社員はリストラされるんじゃないか?

そんな噂の中、やってきた大月(おおつき)は、感じのいい、ごくごく普通の青年だった。
歳は俺より2歳下だという。
支店のやり方に慣れるまで、俺の下で活動することになった。

実はいま、俺には、頭の痛い問題が持ち上がっている。
白地世帯(営業活動をしたことのない土地)の開発目的で飛び込んだ田舎町で、1件の契約も取れていないんだ。
【飛び込み】の基本は情報収集から始まる。その世帯の構成、個人情報の取得。地域交流の有無。そういうものが受け取れて、初めてスムーズな販売交渉をすることができる。
それなのに、その田舎は態度が硬くて、特に近隣との交流関係がまったく聞き出せずにいる。

営業車に大月を乗せて向かう途中、その話をすると、大月は、
「ああ、なるほど」
と言った。
こいつには要因がわかるんだろうか。



393:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:47:01ID:M8Ukg23i0
赤い枠 2/13

2時間以上をかけて到着したI村は、センターラインのない市道脇の低い土地にへばりついているような限界集落だった。
年寄りが多いということは機動力がないということだ。
詳しくは書けないが、俺たちの販売する商品は、そういう家屋にこそ必要なサービスだった。

市道から車を下ろし、数反の田んぼが広がる農道に車を停める。
「村には車が入れないんですか?」
と大月が聞いてくるので、
「入れるよ。でも、目立ちすぎて警戒される」
と俺は苦笑した。
初日、すべての家の玄関で応答を無視された俺の苦い経験談だ。



394:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:47:29ID:M8Ukg23i0
赤い枠 3/13

大月を伴って、農道の先に点在する家々を回った。
1軒めは門前払い。
2軒目は留守のようだった。
3軒め、やっと玄関が開いたので、家主の顔を見ることができた。70近いような婆さんだった。
俺が説明をしている間、婆さんは無遠慮な視線で俺たちを眺め回していた。
この雰囲気が苦手なんだよなあ…。あからさまに敵対視されてるのがわかるから。

世間話ふうに家族構成を聞きだそうとしたとき、横から大月が、
「若い方が同居してるんですか?窓のサッシが赤いのってシャレてますよね」
と口を挟んだ。
あ、馬鹿…。
婆さんは険しい顔になると、
「気分悪くなったわ。帰れ」
と、俺たちを追い出した。

「最初に言わなくて悪かったな」
俺は、交渉が破綻したきっかけを作った大月が落ち込んだだろうと思って、フォローしてやった。
だけど、大月は全然反省した様子もなく(!)、
「あれに原因があるんだ」
と、いまの家を振り返って観察しながら、考え込んでいる。
「他の家も見て回っていいですか?」
と言うので、
「…どうせ訪問するんだから、ついでに窓枠でも何でも覗けば?」
と答えておいた。



395:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:48:05ID:M8Ukg23i0
赤い枠 4/13

4軒めは留守…というより、人が住んでいないようだった。窓枠は普通の色の木枠だった。
5軒めは赤い木枠の家。その窓から爺さんの顔が覗いていたが、呼びかけても出てこなかった。
6軒めは比較的新しい総二階の家で、サッシの色はすべて赤だった。
インターホンを鳴らすと、50代ぐらいの痩せた主婦が出てきた。

俺が今回訪問したのは、いままで未訪だった家屋ばかりだ。
だから、この年代の人間が村に住んでいることは初発見だった。
主婦は、
「うちには必要ないけど」
と、商品については笑いながら断ったが、世間話には応じてくれた。

「この村は源義経をかくまった歴史のあるところなんですって」
主婦の話に、歴史音痴の俺は、
「はあ…」
と答えるのが精一杯だったが、大月はこういう分野に明るいらしく、
「平泉への逃避行の途中の話ですか?身近にそんな場所があるなんて、ちょっと感動ですね」
と、上手く話を合わせていた。

「そうそう。実のお兄さんに追われて、最期は平泉の領主にも裏切られて死んじゃったんですってね。可哀相ねえ」
主婦は、こういう話を気軽にできる相手に飢えていたのか、楽しそうに応じる。
「義経は天才的な軍師だったので、兄の頼朝は自分を越えそうな弟を恐れたのかもしれませんね。才能は、本当は伸ばしてあげなければいけないものなんですが」
と大月はまとめて、主婦に、
「ところで、いまハマってる趣味なんかないですか?僕たちにはその時間を捻出するお手伝いができるんじゃないかなと思ってるんですが」
と、いきなりクロージング(販売交渉で締めに入ること)をかけた。

結果。
俺はこの日、初めてI村で契約を取れた。



396:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:48:39ID:M8Ukg23i0
赤い枠 5/13

帰り道、改めて大月に、心から、
「ありがとう」
と言った。
営業マンならわかると思うが、契約が取れないことが自信喪失に繋がって、後々までいい影響を与えないことがある。
俺はまさにそれだった。

やっとその状態が打破できたのだから、礼なんか、何べん言っても惜しくない。
「よかったですね」
と、大月は驕った様子もなく、笑う。
俺もつられて笑った。なんか、こいつ、いいヤツだ。
「大月は、いつもあんなふうに知識を武器にして契約を取ってるの?」
と聞くと、
「んー…。契約を取ることは頭にあるけど、それ以上に雑談好きなのが、いい結果に結びついてるって感じですかねえ…」
と、無欲な一面を覗かせる。
なるほど。トップにいるヤツは、案外こういう性格なのかもしれない。

「あの村、もう少し通えば、もっと顧客数取れると思うかい?」
1件の契約ですでに満足してしまった俺は、もうI村に足を運ぶモチベーションを失くしていたが、一応、大月に窺いを立ててみた。

大月は、少し考えたあと、言った。
「あの赤い窓枠…、もしかしたら、義経を保護した一族の証なんかじゃなくて、他所からI村に入り込んだ開拓民かもしれません」
「だから、窓枠の色が違う住人との交流がなくて、閉鎖的な暮らしをしていたんじゃないかな」
「開拓民の一人と契約ができたんですから、他の世帯も心を開いてくれる可能性は高いと思いますよ」

それって、つまり…。
「部落問題があったってこと?」
と確認すると、大月は曖昧に笑って、
「極端に閉鎖的な地域にはありがちなんですよ」
と答えた。



397:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:49:05ID:M8Ukg23i0
赤い枠 6/13

会社に帰ってから、大月の話と主婦の話を合わせて考えてみた。
I村は源義経の隠れ里だったという主婦の話は、大月に言わせれば『ありえない』ことらしい。
義経は、ここからはるか北のG県を通って平泉に至った。この地方に足跡が残るわけがない、と。
余所者として冷遇されてきた赤い窓枠の住人たちが、プライドを保つために語り継いできた偽りの寓話だろう、とも。
なるほど。筋は通っている。

ただ、そうすると、主婦の話が成り立たない。
主婦は、窓枠の赤くない家屋の住人たちのことを、『隠れ住んでいた義経を、追っ手に告発しようとした一族』と呼んでいたんだ。
『あの人たちは、義経の祟りを受けて、次々と不幸に見舞われたの。いまでは村に残ってる人はいないわ』

大月の話によれば、I村での立場は、窓枠の赤い家のほうが弱いと思われる。
一方、主婦の話では、窓枠の赤くないほうが村から追い出されている。

…あの村…、本当に、窓枠の赤くない家には、人が住んでいなかったんだろうか…。

つまらない好奇心に駆られたと、我ながら苦笑する。
今夜、仕事が終わったら、もう1度I村に行ってみよう。



398:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:49:31ID:M8Ukg23i0
赤い枠 7/13

昼間ののどかな田舎の情景と違い、闇に沈むI村は、妖怪が出てもおかしくない、おどろおどろしい雰囲気だった。
会社を出る前に、I村に行くことを大月に告げると、大月は笑いながら、
「ご苦労さまです」
とからかった。
だよなあ。やっぱり、俺、物好きだわ。

車は市道に路上駐車した。
あまりに静かで、それ以上、エンジン音を近づかせるのは躊躇われたからだ。
昼間と同じように農道に下りて、集落の間の細い畝道を辿った。
明かりの漏れている家の窓枠は、赤。
人の気配のない家の窓は、アルミの銀や、昔ながらの木枠でできている。
本当に、赤い窓枠以外の家屋は、廃墟と化してしまったんだろうか。
初夏だというのに、空気がやたらと冷たかった。
沈丁花の重い香りが漂ってくる。

小路はますます奥深く、山に入り込んでいく。
闇の中に点々と灯る生活の証。
こんなところに住む人間に、申し訳ないけれど、恐怖を覚えた。
赤い窓枠の住人たちが、本当に他所から入り込んできたのだとしたら、なぜ好き好んで、この土地に住んだのだろう?
こんな、霊気漂う未開の地に。



399:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:49:56ID:M8Ukg23i0
赤い枠 8/13

いつのまにか、俺は山の裾野まで来ていた。
獣臭のする山道の先に、一軒、無灯火の家屋が見える。
その家の窓枠の色を確認したら、帰ろう。そう好奇心に区切りをつける。
厚い樹木の枝葉が頭上を覆う真の夜闇の中、足元に注意を集中して、目標物に近づいていった。
ときどき目を上げて確かめる家屋に、人の住んでいる気配はない。

どきん。
自分の心臓の音が、鼓膜の隣りで鳴り始めた。
掌に汗が滲んでいる。
怖い、んじゃない。やばい、んだ。
何かが住んでいる。あの家に。
引き返さないと。【見た】ら、取り返しがつかない気がする。

アルミ色の窓枠をしたその家に背を向けた瞬間、頭の中に強烈なイメージが刺し込んできた。
巨大な白羽が、家の屋根を貫く。
暖かな電灯の漏れ出た窓が、直後、大音響を立てて火を噴いた。
内部で爆発が起こったんだ。



400:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:50:19ID:M8Ukg23i0
赤い枠 9/13

俺は必死で走った。元の市道に戻るために。
後ろから、数人の悲鳴や呻き声が追いかけてくる。
『助けて!』
『置いていかないで』
『一緒に連れて行って』
思わず後ろを振り返った。
そこで、俺は、情けなくも腰を抜かした。

焼け爛れた人間の残骸が3つ、追いすがってきていた。
2つは大人、1つは子どもの大きさだ。親子だろう。
突然の爆発で焼け死んだ人たちだ、と、確信した。

その3人の後ろから。
トドメを刺すために、鬼が、巨大な鉈を振り上げながら追いかけてきた。



401:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:50:46ID:M8Ukg23i0
赤い枠 10/13

鬼は、3人の首を次々と刎ねた。
子どもの首は、俺の足元に転がってきた。
俺は膝を縮めて、白目を剥いているその首を避けた。
誰の物かわからない嗚咽が、たくさん、辺りに響く。

鬼…巨大な角の生えたマッチョなそいつは、鉈に滴る血液を舐めたあと、俺のほうに歩いてきた。
俺は逃げることもできず、笛のような呼吸音を鳴らしながら、鬼を凝視していた。
死にたくない。
心臓が痛いほど早鐘を打つ。
死にたくない!

無我夢中で、鬼に向かって胸ポケットの携帯を投げつけた。
鬼の硬い皮膚に当たって、携帯はあっさり地面に落ちる。
俺は死を覚悟して、目をつぶった。
そろそろ臨月に入る奥さんの顔が浮かんで、涙が滲んだ。

そのときだった。
鬼の足元に落ちた役立たずの携帯から、強烈な発光が起きた。
同時に着信音がけたたましく鳴る。
鬼は、光と音に責められたように、踵を返して山に帰っていった。
携帯は、鬼の姿が視界から消えるまで、その現象を持続した。



402:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:51:18ID:M8Ukg23i0
赤い枠 11/13

俺は、腰が抜けたまま、這って携帯に辿りついた。
受話ボタンを押すと、大月の慌てた声が流れてくる。
「なかなか取らないからどうしたかと思いましたよ。大丈夫ですか?」
…なぜこいつは、このタイミングで、こんなことを言うんだ…?
「大丈夫」
短く答えて、俺は、昼間に続いて礼を言った。
「またお前に助けられた。ありがとう」
大月は、すべてを見透かしたように、
「間に合ったんならよかった」
と言った。
…不思議なヤツだ。

車までの行程をゆっくりと歩みながら、大月の話を電話越しに聞いた。
「オレ、今日、会社を上がったあとに、【彼女】の家に遊びに行ったんですよ」
始まりは、そんな内容だったと思う。
「オレの【彼女】、…なんていうか…、少し鋭い人で。オレを見るなり、『背中に鬼が見えるよ。人を殺すのが好きみたいだから、追い払っておくね』って言うんです」
ふだんなら信用しない話だけど、いまそれらしいモノを見たばかりの俺は冷汗をかいた。
大月は続ける。

「そんなこと言われたのは初めてだったんで、原因は昼間にI村に行ったことだろうなと思ったんです。だから、笹川さんのことが気になって」
真っ先に心配してくれたらしい。
「…お前の【彼女】に感謝するよ。今度紹介してくれ」
と締めくくると、
「拝観料高いですよ」
と返された。
仏像かよ(笑)。



403:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:51:43ID:M8Ukg23i0
赤い枠 12/13

翌日、熱を出して欠勤した。一晩中、嫌な夢を見ていたからだ。
新築の家に越してきた親子3人が、地域の軋轢に悩んで、ガス自殺をする夢だった。
ガスの充満した家に、突然の雷が落ちた。3万ボルトの電圧が火災を誘発し、新居はあっけなく破裂した。
まだ生きていた母親と子どもは、玄関から出て助かる寸前に、爆発に巻き込まれた。
五体が吹き飛んだ遺体の様子が、目が覚めた今でも、生々しくて頭から離れない。

夜、大月に電話をした。
「サポートする立場でありながら休んで悪かったな」
謝ると、大月は、賑やかな宴席の雰囲気を背景に、
「しんどかったですけど、6軒、契約を取ってきましたよ。熱が下がったら、快挙祝いしましょう」
と笑った。
ろ…6軒?!ありえねえ…。
「どこで?」
と聞くと、
「I村です。赤枠の窓の家ばかりを訪問した成果ですよ」
と言う。
「…あんな気味の悪いとこ、よく再訪したなあ」
と、半ば呆れると。

大月は、いつも以上に穏やかな声で、
「鬼が出る里だったにしても、あれほどの自然が残っている場所を好きにならない人はいないでしょう?」
と返して来た。



404:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/11/09(日)23:52:55ID:M8Ukg23i0
赤い枠 13/13

………たしかにそうだ。

昨日の夜、車を停めて里に入ったとき、山の稜線が重なり合う間から、遅い三日月が顔を出した。
水を張った田んぼが月光色に染まり、野生の菜の花が淡く色を添えていた。
…しばらく…見惚れたんだ…。
こんなところを見つけて住みついた人間に、嫉妬さえ感じた。

「どんなにすばらしい環境に住んでも、人間のやることなんてドロドロしているのかもしれないが…」
開拓民と先住民との確執を【鬼と犠牲者】というイメージで具現化した俺にとって、大月の言葉は、皮肉なしには賛同できなかった。
でも。
「…でも、俺、そういう側面を持つ人間だからこそ、関わることを楽しいと思ってるなあ」
厄介だが、それが本音だ。
大月は、
「オレも人間が好きですよ。だから、笹川さんも早く顔見せてください」
と労ってくれた。

うん。
なんだか、大月って本当にいいヤツだ。



引用元:【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ6【友人・知人】
https://anchorage.5ch.net/test/read.cgi/occult/1223829762/392-404










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ー番外編(寿命の時期)ー <オオ○キ教授シリーズ>

2018.01.15 (Mon) Category : 創作作品

44:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/10/21(火)22:53:56ID:qJtBaj3b0
【甕】シリーズまとめの意味もあって、兄貴視点の番外編を送ります。

番外編(寿命の時期) 1/7

俺が4歳になった歳の年末、両親が交通事故で逝った。
情に厚い田舎の百姓の一族だった親父のおかげで、俺は厄介者扱いされることもなく、すぐに親父の弟夫婦に引き取ってもらえることになった。
子どものなかった夫婦は、俺を実子のように可愛がってくれた。

だけど、素直じゃなかった俺は、なんとなく遠慮した感情を持ったまま5年の歳月を過ごした。
ある日、小学校から帰ったら、母さんが俺を呼び、かしこまった声で報告した。
「弟か妹ができるのよ」
俺は…喜んだふりをした。
ついに、この家に俺の居場所がなくなることを予感していながら。

数ヵ月後、病院のベッドで初めて美耶と対面した。
周りの子どもと比べても、一回り小さな赤ん坊だった。
「未熟児ぎりぎりだったの」
と、母さんは大役を果たした喜びを滲ませる。
恐々と手を握ると、美耶は力強く握り返した。



45:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/10/21(火)22:54:19ID:qJtBaj3b0
番外編(寿命の時期) 2/7

当時の俺は、いま考えると、なんて後ろ向きの暗いやつだったんだろうと思う。

美耶が家族の顔を識別するようになった。
母さんを見て笑い、父さんを見て泣き、俺を見て…警戒しているように…見えた。
俺は、美耶がいなくなってくれることを、毎日願っていた。
まだ幼すぎて、この家を放り出されるのは、とても不安だったから。

学校の帰りに、途中の神社に寄り道をし、虚(うろ=穴)の空いているご神木に向かって祈り続けた。
「俺の居場所がなくなりませんように」
「働くことができるようになるまで、家を追い出されませんように」
「もし願いが叶ったら寿命が半分になってもいいから、どうかいまは捨てられませんように」

美耶の顔が見られなくなって、部屋にこもるようになった。
父さんと母さんは、そんな変化を心配したけど、原因はわからなかったみたいだ。
俺は、自力ではどうしようもないところまで追い詰められていた。

葬式の席で、親類の一人が、
「崇志(たかし)くんだけ生き残るなんて、可哀相ね」
と言った。俺も一緒に死ねばよかったね、という言葉に聞こえたんだ。
俺は、生きてても邪魔にしかならない存在なのか?



46:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/10/21(火)22:54:49ID:qJtBaj3b0
番外編(寿命の時期) 3/7

解決してくれたのは、他ならぬ美耶だった。
その日、いつものように神社に寄り、強力に祈念して帰宅した俺を、母さんが勢い込んで出迎えた。
「ベビーベッドの横に来て!早く!」
わけがわからないまま美耶の隣りに立つと、美耶が俺を見て、
「にーちゃ」
と言った。
笑顔で、はっきりと、そして、何度も何度も。

「初めての言葉が『兄ちゃん』だったなんて、ちょっと嬉しいでしょ」
と母さんは無邪気に喜ぶ。
…俺は…正規の子どもである美耶に、家族として認められた気がして…嬉しかったね、確かに。
すぐに鞄を引っさげて部屋にこもり、思いっきり泣き明かした。
あんなに苦しかった胸のつかえが、あっさりと溶けて消えてゆくのが不思議なほどだった。

早くに死んじまった実親のためと。
孤独な子どもとして悩んだ俺自身のためと。
何の罪のもないのに八つ当たりしちまった美耶のためと。
まあ、名高先輩とか、その他もろもろの人たちのために、俺は出家という道を選んだ。
いまは精神的にも落ち着いて、特につまづきもない。

ただ…。
あの虚の神木との約束が、最近、肩にのしかかってきている。
『もし願いが叶ったら寿命が半分になってもいい』
俺はいま35だ。本来の半分の人生しかないとしたら、そろそろ終わりが見えている。



47:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/10/21(火)22:55:14ID:qJtBaj3b0
番外編(寿命の時期) 4/7

だから、【ついでに】呪いをかぶってやろうかと思って、あの甕を壊した。
死んで元々だったから怖くはなかった。
でも、美耶は『呪いはもうない』と言う。
俺は、また美耶に助けてもらったわけだ。

退院した美耶とお袋を車に乗せ、俺は郷里へとハンドルを取った。
同時に退院した晴彦は、
「自力でなんとかするよ」
と、返却された自分の車で岡山まで帰っていった。
後姿を見送りながら、美耶が、
「ハルさん、また会えるかなあ…」
と呟くので、
「教授の家に戻るって言ってたろ。そしたら同じ県内なんだから、毎週でも会える」
と慰めた。
露骨に嬉しそうな表情(かお)するのが笑えるねえ。



48:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/10/21(火)22:56:07ID:qJtBaj3b0
番外編(寿命の時期) 5/7

帰り道。
後部座席でお袋が爆睡に入ったところを見計らって、美耶が語りだした。
「ねえお兄ちゃん…気持ちの悪い話しても、いい?」
眠気を覚え始めていた俺は、歓迎した(笑)。
「じゃあ」
と、妹は話し始める。

「あの甕ね、何に使ったかっていうと、地下にいる修験者に飲み水を提供するためだったの」
「ふうん…」

俺のイメージでは、修験者は、一切の食物を断たれる行(ぎょう)を強いられたのかと思ったが、水を与えられたということは、即身仏に近い状況だったわけか。
即身仏っていうのは、修行者が自らの意思で地中の箱に収まり、餓死するまで行を行うという荒行のことだ。
食べ物は口にせず、漆を混ぜた茶のみを飲料するので、理想的なミイラに仕上がるらしい。

美耶が続ける。
「でもね、藤原は、その水に死んだ修験者たちの脳を混ぜたの。だから、まだ生きている修験者が甕の水を飲んだとしたら」
【共食い】になるんだよね、と、誰かに聞かれることを憚るように、美耶は、口元を手で覆った。



49:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/10/21(火)22:57:33ID:qJtBaj3b0
番外編(寿命の時期) 6/7

美耶の説明は、古代呪術の片鱗をかじった俺には、ピンと来る話だった。
「蟲毒(こどく)…だな」
蟲毒とは、毒のある生物を同じ入れ物に入れて共食いさせ、最後に生き残ったヤツを呪いやお守り代わりに使うっていう呪法だ。所持して定期的に贄を捧げてやれば、家督に繁栄をもたらす。逆に、敵対している家に送りつけて滅ぼす力も持つと言われる。

中国から日本に伝播してきた時点で、【毒の生物】に関しては、少し形を変えているようだ。
毒性を持たない犬を、頭だけ出して地中に埋め、飢え切ったところで首を刎ねて呪術に使うという【犬神】なんかも、蟲毒の一種だと分類されている。

「…人間って、なんでそんなこと実行できるの…?」
美耶は辟易した様子で吐き捨てる。
「さあなあ」
と答えたけど、俺にはなんとなく、呪術に頼らざるを得なかった、そして、呪術ばかりを発展させてしまった人間の気持ちがわかるんだ。
それしか救われる方法がなかったから。

「どうしても叶えたいことがあったら、より強力そうな力に頼るものじゃないのかな、人間って」
と言うと、美耶は、
「神秘的なものに頼るより、生きてる人間同士が協力し合ったほうが、絶対にいい結果が生まれる」
と言い切った。



50:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/10/21(火)22:58:34ID:qJtBaj3b0
番外編(寿命の時期) 7/7

美耶とお袋を家に送り届けて、寺に帰ると、お庫裏さんが外まで出て迎えてくれた。
「お帰りくださってありがとうございます」
いつもどおりの他人行儀な挨拶。
ついつい、イジワルなツッコミをしてみたくなった。
「俺が帰ってきて、嬉しい?」
お庫裏さんは笑って、
「貴方は私の大事な家族ですから」
と言った。

甕を壊すときに、俺、こいつに言ったんだよね。
「もし俺が死んだら、悪いけど、もう1回養子取ってくれる?」

馬鹿だな、俺って。
【家族】を信用しなくて、何回同じ過ちを犯すんだか。

「ただいま」
と言うと、奥さんは、ますます嬉しそうに、
「お疲れさまでした。お帰りなさい」
と答えた。

『明日死ぬ人間を今日救ったとしても、意味はない』
と美耶には言ったが、【今日できること】があるのなら、明日死ぬとしても、人生の意味はあるのかもしれない。
俺が僧侶である意味が、また一つ、追加された。



引用元:【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ6【友人・知人】
https://anchorage.5ch.net/test/read.cgi/occult/1223829762/44-50









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ーハルさんー <オオ○キ教授シリーズ>

2018.01.13 (Sat) Category : 創作作品

781 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/05(日) 13:40:08 ID:MDy0AQwp0
ハルさん 前編 1/12

翌日になっても、教授の熱は引かなかった。
とりあえずチェックアウトをし、ホテルで聞いた総合病院にタクシーを回す。
教授の性格からして、熱があっても奈良に行くって言うかなと思ったけど、おとなしく診察を受けてくれた。

午前いっぱいはかかるという解熱用の点滴が始まったとき、私たちのベッドにやってきた人がいた。
30歳前後の容姿の整った男性で、名前を晴彦と名乗った。
…教授の息子さんだった。
夕べ、兄貴から連絡が行き、駆けつけてくれたのだという。

「そろそろ自分の歳を考えなよ、父さん」
ハルさんの軽口に、教授は、歓迎しない面持ちで答える。
「お前の顔を見たら、余計に具合が悪くなった」
もうっ。なんでそんな言い方するかなあ?見てるこっちがハラハラするよ。

ハルさんは一向に気にしない様子で、自分の携帯の画面を教授に向けながら、言った。
「昼前には母さんも来るから。もっと熱が上がるかもね」
画面に出ている着信メールの文面には、
『晴彦へ。いま、大阪駅を出ました。あまりお父さんにつっかからないように』
と書かれている。
ハルさん、守ってないじゃん(笑)。



782 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/05(日) 13:41:07 ID:MDy0AQwp0
ハルさん 前編 2/12

すぐに教授が寝てしまったので、私とハルさんは処置室から出て、待合のベンチで話をすることになった。
「どうもすみません。ご迷惑をおかけしまして」
と良識的な挨拶をしてくれるハルさん。
教授に向かってないときは、ごく普通の人なんだ(笑)。
「こちらこそ、教授に無理させちゃったみたいですみません」
と、私も謝る。

「昨日の行程はそんなにきつくはなかったんですけど、教授、ちょっとボケてたし、もともと調子が悪かったのかも」
と付け加えると、ハルさんは、
「【あれ】のルーツを調べていたんですってね。親父は、あの壷のことになると、かなり神経質になるんですよ」
と、私に非がないことを重ねて強調しながら、続ける。

「恥ずかしい話ですが、親父とお袋は離婚していまして。その理由も、どうも、あの壷の呪いとやらがお袋とオレに降りかかってこないようにという配慮があったみたいなんです」
「…離婚されたのは、教授から聞いてましたけど…」
そんな理由だったなんて…驚いた。
「馬鹿でしょ?妄想もたいがいにしやがれ、ですよね」
苦笑しながら吐き捨てるハルさんは、教授と離れて暮らしてることを、納得してないように思えた。



783 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/05(日) 13:42:06 ID:MDy0AQwp0
ハルさん 前編 3/12

ハルさんは、仕事の関係上、現在は岡山で暮らしている。
お母さんは大阪なので、ハルさんのほうが一足先に広島まで着くことができたらしい。
お母さんが病院に着いたら、入れ替わりに、ハルさんは私を家まで車で送ってくれるという。
そこまでしてもらうと心苦しいので断ると、
「途中で藤原京にも寄ってあげますよ。興味あるでしょ?」
と、心中を見透かされた。
…はい。一人でも行こうと思ってました(汗)。

それでも、
「家まで送ってもらうとなると、ハルさんは、また岡山まで帰ってこないといけないわけだし…」
と逡巡したけど、
「いや。もうそのつもりですから」
と聞かない。
やっぱり教授の息子さんだ…。



784 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/05(日) 13:42:56 ID:MDy0AQwp0
ハルさん 前編 4/12

よくよく話を聞いてみると、ハルさんは、私を送ってくれるついでに、今晩は兄貴のお寺に泊めてもらうよう。
「住職と会うのは3年ぶりぐらいかな。電話ではちょくちょく話をするんですが」
兄貴からはハルさんのことを聞いたことがなかったので、驚いた。
「ハルさんと兄貴が知り合ったのって、やっぱり、あの甕がきっかけですか?」

と尋ねると、ハルさんは、バツが悪そうに頭を掻きながら、
「そうなんですよ。高校生のときに、初めて、親父にあの寺に連れて行かれて、オレも供養…供養って言うのかな?…を受けました。お兄さんはまだ養子に入られてなかったので、会ったのは数年後になりますが」
と、言った。
兄貴がいまのお寺に婿養子として入ったのが7年前だから、その頃からの付き合いってわけかあ。長いよね。

「兄貴は、仏門に入ってからしばらくは、家に寄ることがなかったので、ハルさんのことは全然知りませんでした。ごめんなさい」
非礼を謝ると、ハルさんは人懐っこい笑顔を浮かべて、
「オレは住職の妹さんのことはよく聞かされていましたよ。紹介しろとさんざん迫ったけど、断られまくった経歴もあります」
と冗談を返した。

なんかいいな。ハルさんって。
気さくで楽しい人。

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