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都市伝説・・・奇憚・・・blog

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2024.04.26 (Fri) Category : 

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マセラティおじさん(6)

2019.02.25 (Mon) Category : 創作作品

130:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:25:31ID:OzhAcJcS0
もう冬が終わろうとしていた。
みんな暖かい春を心待ちにしている中で、僕だけは鬱な気分だった。
理由は簡単である。もうすぐ三ヶ月。
呪いが、いつ来てもおかしくないからだ。

その鬱のせいで、バイオリズムが狂ったのだろう。
季節の変わり目という煽りも受けて僕は、見事に風邪をこじらせてしまった。
大人しく家で寝る羽目に。高熱で、ふらふらだ。寒気が止まらない。

僕は、布団にくるまりながらもなお、ガタガタと震えていた。身体が衰弱しきっている。
叔父は、一昨日から家には帰って来ていない。
冷凍食品を買いだめしておいてよかったと、心底ホッとした。
こんな身体じゃ、とてもじゃないが買出しなんか無理だ。

もしこんなとき母親がいれば、やっぱりお粥とか消化にいいものを作ってくれるのかな?
母親がどんな人なのか分からないまま育った僕は、そんなことを考えながら眠りに落ちた。

気付いたら僕は、学校の教室に、たった一人で佇んでいた。
なぜか二年の教室ではなく、三年の教室にいた。
僕はいったい何でここにいるんだ?そんな疑問は、すぐに絶望へと変わった。
そこが音の無い世界だったからだ。僕の大嫌いな世界…。
くらっと眩暈がした。呼吸が、どんどんと荒くなる。
とうとうこの日が来た。
僕は、完全にその場に固まってしまった。目だけ動かすかたちで、周りを見る。

教室の蛍光灯は、片っ端から粉々にされていた。
かろうじて教壇の上にある一本の蛍光灯だけが、弱々しい光を放っている。
黒板の上に掛けられた時計も、ガラスの部分がバキバキに割られ、中の針は握りつぶされたように丸まっていた。
教室の窓ガラスも、何者かによって全て割られて、なんとも無残な有様だった。

その窓の外は、何も見えない漆黒の闇である。見るだけで吸い込まれそうな暗黒地獄が、教室の外に広がっていた。
風もないのに、カーテンが「こっちにおいで」と手招きするがごとく、ゆらゆらとなびいている。
あまりの異様な光景に、絶句してしまった。

ギュイーン ギュオーン ギュワーン ギュオーン
いきなり無機質なチャイムがしたので、身体がビクッと反応し、机にぶつかった。
音程が外れ、ねじって歪めたような音。それが、学校中に鳴り響いた。



131:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:26:54ID:OzhAcJcS0
「おえああ、あいおあいえあう(これから、狩りを始めます)」
滑舌が悪い校内アナウンスが流れる。明らかに人間の声じゃない。

やばいやばいやばいやばい…
もう完全に頭の中がパニックだった。汗が、ポタポタと床に落ちる。おっさんは一向に現れる気配がない。

時間にしておよそ数分。自分には何十時間にも感じられた。
ふいに人の足音が聞こえた。それに混じって、男と女の言い争う声。
どんどんこっちに向かってきているのが分かった。おっさんなのか?それとも…。
人の声ではあるが、明らかに二人いる。逃げようにも、すぐそこまで声が迫っていた。
心臓が爆発しそうだ。そして…

「あ、いたいた。やっと見つけた。」
おっさんが廊下から教室を覗き込んでいた。
「二年の教室にいないから探すのに苦労したよ。」
肩の力が抜けるのが分かった。思わず安堵のため息が出る。久しぶりに見るおっさん。
「もう君とは会わないようにしよう」
と言われて以来、全く会っていなかったので、懐かしかった。

「探すのに苦労したのはこっちの台詞よ。」
と、女性の声。おっさんの背後に、その声の主と思わしき人が見えた。
すらっとした身体に、パリパリの黒いパンツ、そして黒いライダースジャケット。肩までかかるさらさらの髪。
蛍光灯の明かりが廊下まで届かないので、顔までは見えなかった。
「あんたさ、ケータイくらい持って行ったらどうなの?」
その人が、おっさんに怒鳴っている。
「使い方が分かんねぇんだよ。」
おっさんは、そう言いながら僕のもとにやって来た。

間近で見るおっさんは、実に頼りなさそうだった。
頬はこけて、髪が乱れている。無精髭もうっすら生えていた。声もどこかしら元気がない。

「君に紹介するよ。あの人は俺の仕事仲間でね。名前は『ハル』さんだ。」
そのハルさんと言われる人も、教室に入って来た。

「君が○○(僕の名前)クンね?話は聞いているわ。」
若い女性だった。見た目は20代後半くらい。顔は、芸能人に例えるなら夏目雅子に似ている。
今のおっさんとは対照的で、すごくきれいな人だ。



132:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:27:25ID:OzhAcJcS0
ハルさんは、挨拶がてら僕にいろいろと話してくれた。
まず、おっさんがよく使っている爆竹の音がする技。
あれは、たいていの相手であれば、一撃で葬れるほど強力なものだそうだ。まさに一撃必殺の技。
足止めにしかならないものだと思っていたので、すごいびっくりした。

「強力だけど、術者の身を滅ぼす危険もあるわ。」
とハルさんは言う。
そんなのを二発食らっても死なない呪い。つまり、それだけ呪いも強いわけで。
そんなおっさんをサポートするために、新たにハルさんが加わったそうだ。
「よろしくね。」
ハルさんが、僕に微笑んだ。

「いうう、おういんいうあえいえうああい(至急、職員室まで来てください)」
また校内アナウンスが入る。

「どうする?行く?」
おっさんが、笑いながらハルさんに聞いた。
「馬鹿じゃないの?死にに行くつもり?」
「冗談だよ。さすがに、こんな身体じゃ今日は無理。」
「あんたの冗談は、冗談に聞こえないわ。」

おっさんとハルさんって夫婦なのか?
二人が話している間、僕が会話に入り込める余地は全く無かった。完全に、受け身の状態である。
僕は、複雑な気持ちだった。おっさんを取られたような気がして、ハルさんにちょっと嫉妬してしまった。

「とにかく奴が仕掛けてくる前にここを出よう。」
と、おっさん。
「そうね。」
ハルさんも頷く。

おっさんとハルさんは、机や椅子をどけ、出来たスペースの真ん中に僕を立たせた。
その僕を挟むようなかたちで、二人が立つ。僕の前方にハルさん、背後におっさんという感じ。
「これやると、死ぬほど疲れるから嫌なんだよなぁ。」
背後から、だるそうに呟くおっさんの声が聞こえた。
「あんたがケータイ持って来ないから、これやる羽目になったんでしょうが。」
ハルさんもだるそうに言う。何か始める気らしい。



133:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:28:21ID:OzhAcJcS0
「そこから絶対に離れないでね。」
そう言うと、ハルさんは静かに目を閉じた。
後ろにいて見えないが、おっさんも同じように目をつぶったのだろう。
これから何が起こるのか全くわけが分からないまま、事の成り行きを見ている僕。
ハルさんは、精神統一しているのか、目をつぶったままだ。
しばらくそのままの状態が続くと、ふいに僕の視界が揺らぎ始めた。

電子機器が唸るようなノイズが、耳元で聞こえる。
同時に、自分の意識が身体から離れるような不思議な感覚を味わった。
自分の存在が、そこから消えるような、そんな感覚。目に映るものが、どんどん真っ白になっていく。

僕は起きた。目に映るのは、僕の部屋の天井と、シーリングライト。
夢だったのか?起き上がろうとするが、身体が思うように動かせない。
そういえば、風邪で動けないんだった。ワンテンポ遅れて、把握する。
僕は、もう元の世界に戻っていた。

あの世界とは違い、僕の部屋にある目覚まし時計が、一秒ごとにカチカチと規則正しく音を立てながら、針を動かしていた。
あまりのあっけなさに、自然と笑いがこみあげる。
今回、呪いがした事といえば、不気味なチャイムと校内アナウンスくらいだ。

目を勉強机の方にやると、椅子の背中にもたれかかって、おっさんがだらしなく座っている。
僕が起きたことに気付き、おっさんはニコっと微笑んだ。
ハルさんが見当たらない。

「ハルさんは?」
「あぁ、あいつか。風邪をひいてる君に何か作ってあげようってことで、買い物に行ったよ。」

途切れ途切れの息で、おっさんが答えた。疲労困憊しているのが伺える。
「とにかく化け物だよ、あいつは…。俺なんかこんななのに、すました顔して出て行きやがった。」
おっさんは、悔しそうだ。

「おじさんとハルさんってどういう関係なの?」
僕は聞いた。
「俺の仕事仲間。一番腕が立つ。」
「おじさんの妻?」
笑いながらおっさんは、否定した。
「あんなのが女房なんて死んでもごめんだね。ああ見えて俺より歳食ってんだぜ。」
え?僕は、思考がストップしてしまった。



134:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:28:51ID:OzhAcJcS0
「ま、正確な歳は俺も知らないけどな。でも60は裕に超えてるよ。」
ハルさんに少し惚れていた僕にとっては、とんでもない衝撃だった。
思考は停止していたが、聞いてはいけないものを聞いてしまったというのだけは分かる。

ニヤニヤしながらおっさんは、身体を起こすと、僕の布団をかけなおしてくれた。
「君を見ているとね。我が子を思い出すよ。」
そう言いながら、どこか懐かしそうな目で、僕を見ている。僕と同じくらいの歳の息子が一人いるらしい。
「ちゃんと家族に会ってる?」
心配になって聞いてみた。
おっさんは、首を横に振る。
「もうね、会えない。」

離婚して会わせてくれないのか?もしくは、仕事のために家族を捨てたから、家族に会わす顔がないとか?
この人のことだから、家族をないがしろにしていても、別におかしくないかも。
頭の中で僕は、会えない原因を推理していた。

「君も知ってるだろ?俺が呪われているのを。」
「え?」
「気付いた時にはね、もう手遅れだった。それでもあきらめずに頑張ったよ。それこそ、当時は若かったし、今より力もあった。でも…助けられなかった。」

僕の推理は見事に外れた。
おっさんの家族は殺されたのだ。それも自分の呪いに…。
「俺が殺したも同然さ。」
そう言うとおっさんは、下唇を噛んだまま、黙り込んでしまった。自分を責めているようだ。
涙こそ見せなかったが、僕はそこにおっさんの家族を想う深い愛を、確かに感じることが出来た。

「たっだいま~。」
重苦しい空気の中、何も知らないハルさんが帰ってきた。そして僕の部屋に戻ってくる。
それを合図にするように、おっさんは腕時計に目をやる。
「悪いな。俺はもう行かなきゃ。ハル、後はまかせたぞ。」
「分かった。」
とハルさん。そしておっさんは、また呪文のようなものをつぶやくと、瞬時に消えてしまった。
部屋には、俺とハルさんの二人だけとなった。



135:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:30:27ID:OzhAcJcS0
「君、お腹空いてる?」
もちろんお腹はペコペコだったけど、ハルさんと二人だけで食事をするのは気まずかったので
「ううん」
と答える僕。
「あら、そう。じゃあ、料理だけ作っておくわ。ちょっとキッチン借りるね。」
そう言うと、ハルさんはキッチンの方へ行ってしまった。

進学塾の定期試験が近いので、その間に勉強しようと思ったけど、意識が朦朧としているので、内容が頭に入りそうにもないので、やめた。
何もせず、天井をじっと眺めながら待つこと数十分。ハルさんが、戻ってくる。
「テーブルの上に作ったのが置いてあるわ。ちゃんと食べなね。」
声も無しに、ただ頷く僕。

「じゃあ、私もそろそろ行くね。」
そう言うとハルさんは、おっさんと同じようにその場から、ふっと消えてしまった。
部屋には、僕一人だけとなった。

だるい身体を引きずりながら、僕はリビングに向かう。
テーブルの上に、書置きが置いてあった。『早くよくなってね。ハル』と書いてある。
その横にラップがされたお椀。まだ温かいので、蒸気で白く曇っている。中身が見えない。僕はラップを取った。
卵粥だった。

それを口にする。
うまい。おふくろの味ってやつ?とにかくうまかった。

せっかく僕のために作ってくれたのに…。
ハルさんは、僕がどんな顔して食べるのか見たかったのでは?
そう考えると、すごくハルさんに申し訳ない気がした。

次の日、嘘のように風邪が治っていた。
薬の効き目なのか?それとも卵粥のおかげなのか?それは分からない。
身体が軽い。鬱だった気分も晴れ晴れとしていた。
実に気持ちいい朝である。

支度を整えると、軽快な足取りで僕は、学校へと向かったのだった。



引用元:死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?157
https://hobby9.5ch.net/test/read.cgi/occult/1170418958/130-135














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窓の外から長い黒髪の女が覗いている

2019.01.16 (Wed) Category : 創作作品

836:窓の外1/2:2007/02/01(木)04:15:17ID:8RurMs3S0
んじゃ。創作。

「相談したいことがあるんだけど」
そう話しかけてきたのは、まだろくに話したことも無いクラスメイトだった。
新学期のクラス替えがあったばかりで俺もそう社交的な方ではなかったからまだ名前もおぼつかないクラスメイトに相談を持ちかけられるのは妙な気がする。

「ああ」
と返事をしてからなんとなく相談内容の察しがついた。
実は俺は少々霊感があったりする。
といってもそんな大したものではない。
霊が見えたり祓えたりできるわけでもなく、ただ嫌な感触を感じられるだけだ。
こいつがそんなことを知ってるはずも無いがまあ誰かから聞いたんだろう。

以前肝試しでちょっとだけやらかして俺の霊感は仲間内では有名なのだ。
案の定その相談とは怪談の類だった。
「実は俺一人暮らししてるんだけどさ、ここ何日かその、窓にな」
要約すると、幽霊が出て困ってるらしい。

ある日テレビを見てるときにふと視線を感じてカーテンの隙間を見ると窓の外から長い黒髪の女がこっちを見ていたんだそうだ。
あわてて隣の部屋に逃げ、しばらくして様子を見るともういなかった。
別の日にまた視線を感じてカーテンを開けると、またそいつがいたという。
「俺もう怖くてよ。頼むから今晩泊まりに来てくれないか」
実際行ったところで何が出来るわけでもなさそうだったが俺は友人の家に泊まりに行くということに魅力を感じて受けることにした。



837:窓の外2/2:2007/02/01(木)04:16:20ID:8RurMs3S0
日が暮れるとそいつはだんだん落ち着かなくなってきた。
知らない人間と言ってもいい俺に相談するぐらいだからそうとう追い詰められていたんだろう。
ちょっとかわいそうになって俺はわざと明るく励ました。

「大丈夫だって。今だって何も感じないし、こういうのは平然としてたら出てこないもんだ」
そう。俺は家の前、部屋の中まで入っても何も感じなかった。
おそらく見間違えか何かで先入観を持ってしまい、それ以後もそれらしいものを無意識のうちに探して当てはめてでもいるんだろう。
一緒に過ごして安心させればそのうち消えるはずだ。
例え何か出たところで俺には慣れのせいか平然としていられる自信があった。

楽観的に考えているとそいつが急にビクッと体を振るわせた。
「な、なぁ。また見られてる気がするんだが、頼む、お前カーテンの裏を確認してくれないか」
言われても俺にはやっぱり何も感じられなかった。
やはり少々神経質になっているんじゃないだろうか。
まあこれでカーテンを開けて笑ってやればこいつも安心するだろう。
そう考えてカーテンの外を見ると、そこに“そいつ”がいた。

長い髪。白い服を着た女が、血走った眼を見開いてこっちを見ていた。
「うあああああああああああ!!」
俺は無我夢中で玄関を飛び出し駆けた。
クラスメイトも後ろから付いてきている。
コンビニの明かりの前までついて俺たちはようやく一息つくことが出来た。

「や、やっぱり居ただろ?どうしよう。俺霊に呪われてるのかな」
まだ勘違いしたままにこいつに俺は言った。
「馬鹿野郎!あれは生身の人間だ!」



840:ドゥカッティー:2007/02/01(木)04:23:03ID:xGN2gHcf0
>>837
続きが読みたい。
その後どーなっちまうんだい?
この三人。

842:窓の外:2007/02/01(木)04:29:23ID:8RurMs3S0
>>840

前に姉が
窓の外に血まみれの幽霊が立ってるのと
窓の外に血まみれの人間が立ってるの
どっちが怖い?って言ってたのから起こしました。
特に続きは考えてなかったけどあったほうがいいのかなぁ。



849:窓の外3/2:2007/02/01(木)04:46:57ID:8RurMs3S0
無理やり続き

恐怖に引きつるクラスメイトの顔。
相当ショックを受けたのかと思ったが何だか様子が可笑しい。
クラスメイトの視線の先へ俺も振り返ると、“あいつ”が後ろから迫ってきていた。
「っ――――――――!!」
今度は悲鳴にもならない。
再び駆け出す俺たち。
が、赤信号につかまってしまう。
立ち止まることに耐え切れなかったのかクラスメイトが飛び出した。

暗闇にライトだけでは距離が掴みにくいが、俺もつい後を追った。
なんとか轢かれずに済んだがそれを実感するまもなくさらに走る。
そして後方にブレーキ音。
間髪入れずに衝突音が鳴り響いた。
さすがに足を止め様子を伺う。
……。
悪夢が、終わった。

後日警察から聞いた話だと、あの女の部屋にはクラスメイトの写真がびっしり貼られていたそうだ。
いわゆるストーカーってやつだ。
事故死した女の事をかわいそうだと思う気持ちもあるがやはり思い出すたびに浮かんでくるのはあのときの恐怖だろう。
俺はショックでしばらく学校を休んで、久しぶりにあのクラスメイトと会った。
開口一番そいつは言う。

「まだ、あの女が窓の外に立ってるんだ」
死んでもなお。



引用元:死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?156
https://hobby9.5ch.net/test/read.cgi/occult/1169205119/836-849




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首なし

2019.01.11 (Fri) Category : 創作作品

724:その1:2007/01/31(水)15:04:22ID:y+dfwiSU0
今からもう20年以上も前の話。
私が中学生の時分のことです。
列車旅行が好きだった私は、小遣いがたまると友人Oと連れ立っては札幌発の列車で道内のあちこちに出かけたものでした。
当時は赤字ローカル線廃止の嵐が吹き荒れていた頃で、1つ2つと地方線が姿を消つつあった時代です。

中2の夏休みのことでした。
札幌近郊のI市から旧産炭地に延びる線が廃止になるとの噂を耳した私は、nすぐさまその友人Oを誘って廃鉱巡りの日帰り旅行に出かけました。

ローカル列車はI駅を出発すると、しばらく田園地帯を走った後、次第に山あいに分け入っていきました。
車窓のすぐそばまで山肌が迫ってくるような厳しい鉄路が続いた後、急に視界が開けて列車は停車しました。終点でした。
昭和30年代後半には年間乗降客が55万人を超えていたその駅ですが、そのときに降りたのは私たちの他は3人だけでした。

携帯していた地理院の地図を見ると、廃鉱と炭住集落はさらにその先です。
私たちは逸る気持ちを抑えながら目的地へと向かいました。
駅前の古い民家が散在する集落を抜けると、道は急に上り坂になり、大きく右にカーブを描くとともに深い木々に覆われ始めました。



725:その2:2007/01/31(水)15:04:49ID:y+dfwiSU0
いつ着くんだよ・・・と苛々し始めたころ、急に道が左に折れました。
次の瞬間、二人は息を飲みました。
目の前に赤錆だらけの巨大な鋼塔がそびえていたからです。
それは廃鉱の高塔でした。

「遺跡」を目の当たりにして大満足の私たちは、記念写真をとった後、再び地図を広げ現在位置を確認しました。
次に向かうは炭住群です。地図ではかなり大規模です。

どんな廃墟が現れるんだろう?

期待はあっさりと裏切られました。
行けども行けども炭住群など現れやしません。
替りに二人が目にしたのは、深い雑草に覆われた広い原っぱでした。
目的の建物はとうの昔に取り壊されていたのです。

がっかりして
「もう帰ろう」
と切り出すと、
「あれ見える?」
とOが聞いてきました。
指の先を注視すると、野原の奥に灰褐色の塊が見えます。

「炭住じゃね?」
落胆しかけていた二人は喜び勇んで走り出しました。
近づくと、そのとおり、数軒の平屋型の炭住であることが分かりました。
炭住と私たちの間には川が流れており、建物のある敷地はそこだけが周りよりも低くなっていました。



727:その3:2007/01/31(水)15:05:13ID:y+dfwiSU0
もちろん探検です。
2軒は内部がぼろぼろで見るべきものは何もありませんでしたが、残る2軒は保存状態が非常によく、家具も当時のままでした。
私とOは夢中になって「発掘」を開始しました。

当時の家計簿やら、子供の勉強道具やら、鉱夫の勤務予定表やらとにかく色んなものが出てきました。
その中から、私は小学校卒業の寄せ書きノートを発掘物としてリュックにしまいました。
おそらくはその家の子供のものだったのでしょう。

発掘にも飽きて、二人は炭住の外に出ました。
それまで気づかなかったのですが、炭住からは、さらに奥に向かう道が続いていました。
道のすぐ先には、古い大きな公民館のような建物があり、建物の脇の空き地は、赤茶けた石か砂のようなものが一面を覆っていました。
踏みつけた感じが快く、Oと2人でぎゅっぎゅっと踏みつけてまわりました。

建物の内部は、2階から1階にかけてはぼろぼろになった銀幕が垂れ下がり、その前には台座のはがれた多数の椅子が据えられていました。
そこでは往時、映画が上演されていたのだと思います。

券買所と思しき場所の奥には、ガラス製のヨーグルトの空容器がいくつも打ち捨てられていました。
100まで数えたところで残りがあまりに多いので数えるのは止めてしまいました。
ここでの発掘物はその容器でした。



728:その3:2007/01/31(水)15:05:32ID:y+dfwiSU0
数年後、私は東京で大学生活を送っていました。

冬のある日のことです。
私は夏の帰省中に実家で取りだめたビデオの整理をしていました。
一つ一つデッキに入れては中身を確認し、ラベルを貼る作業です。

作業も半ばのことでした。
そのビデオだけがスポーツのものではなく、TV局のスタジオ内らしき場所が映っていました。
どうやら妹が録画したものを間違って持ってきてしまったようです。
画面はちょうど、男性が2人の中年女性に何かを手渡したところでした。

1人の女性はそれを見るや、白目を剥いて卒倒しました。
隣の女性は
「あ、やだ」
と言ったきり、すすり泣き始めました。

それは1枚のスナップ写真で、
私が中2の夏に訪れたあの建物が写っていました。

そこはいわゆる「炭鉱会館」でした。
炭鉱地域の集会所と娯楽施設を兼ねた建物です。
その炭鉱は昭和40年代前半に坑道で大爆発が起こり、多数の死者が出たそうです。
負傷者は炭鉱会館のすぐ横にあった赤レンガ建ての病院に運ばれ、そこで亡くなる方も大勢いたそうです。
事故の後、そこは廃鉱となり、人々はその地を離れていきました。

テレビの画面にはその建物内部の写真も映し出されました。
その2人の女性によると、たくさんの顔が写し出されているとのことでした。



729:その4:2007/01/31(水)15:05:56ID:y+dfwiSU0
胸騒ぎがしました。
そうです。あの「発掘物」です。
何も知らなかったとは言え、悲惨な事故にあってその地を離れざるを得なかった人々の家から、そして炭鉱会館から、勝手に物を持ち出してしまったのです。

なぜあの家だけにあんなに色々なものが残っていたのか?
彼らは夜逃げ同然に去らなければならなかったのではないか?
それはなぜか?

冬休みになるとすぐに帰省しました。
あれを探し出して、元の場所に戻すためです。
帰った次の日にあの地に向かいました。
終点でバス降りると、急ぎ足で目的地に向かいました。
牡丹雪が激しく舞っていました。

あの上り坂の下まで来て愕然としました。
私はすっかり冷静さを失っていました。
季節は冬です。
もう誰も住まないあの地が除雪されることはないのです。
春になるのを待たなければなりません。

そして、それは帰ってきたその日から始まりました。



730:その5:2007/01/31(水)15:06:29ID:y+dfwiSU0
家に着いたときはもう夜の10時を回っていました。
落胆しながら帰る道すがら、私は件の「発掘物」の保管場所のことを考えていました。
今回のことがあるまでは中学時代の教科書などをまとめた段ボール箱に入れていたのですがもうその気にはなれません。
色々と考えた結果、母屋とは離れた外の物置にしまうことにしました。

目的を果たせなかったこともあって心中穏やかではありませんでしたが、疲れていたこともあって布団に横になると、すぐ眠りに落ちてゆきました。

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そこは木造の小学校で、私は教室の後ろで級友とふざけて遊んでいました。
そのときです。非常に強い視線を感じました。
休み時間で、教室では何人かの子供がグループになっていましたが、一人だけ、どのグループにも加わらない子がいました。
見た感じ、何か妙な印象を与える子でした。
首が非常に短いのです。
その子が私をじーっと見つめていました。

--------------------------------------------------

布団から跳ね起きると、私は肩で息をしていました。
急いで部屋の明かりをつけました。
部屋には何の代わりもありませんでした。

気持ちを落ち着けるために下の階へ行くと、母親と妹がまだテレビを見ていました。
いつもと何も変わらない情景です。
3人でテレビを見ていると気持ちが落ち着いたので2階へ行き、また布団に潜り込みました。



731:その6:2007/01/31(水)15:07:07ID:y+dfwiSU0
しかしながら、なかなか寝付けません。
そのうち背中に違和感を感じ始めました。
どうやら敷布団の下に何かがあるのです。
脱いだ服か何かの上に布団を敷いてしまったのでしょうか?
確かめようとめくると、そこには物置にしまったはずのあの発掘物の寄せ書きノートがありました。

朝になるまで、両親がいる1階の今でテレビを見て過ごすことにしました。
私には小さい頃から物を布団の下に隠すくせがあり、疲れたことこともあって無意識にそうしてしまったのだろうと思うことにしました。
物置に隠したのも夢の中で見た光景と考えることしました。
テレビではくだらない深夜番組が続きました。

「おい、起きろ」
父親の声がしました。
いつの間にか居間で眠り込んでいたようです。
しばらくそこでぼうっと過ごしながら、母親が朝食の準備をするのを待っていました。

「あんた、相変わらず物好きねー 何これ?」
台所から母親の声がしました。
台所のテーブルの上には、もうひとつの発掘物であるヨーグルトの入れ物が置かれていました。
「お母さん、どうしたの? これ」
「どうしたのって、あんたが食器戸棚に置いたんでしょ?」
「え?・・・そうそう、懐かしい形だから、それで何か食べようと思ってさ・・・」

父もやってきました。
「おお、懐かしいな、子供の頃よく食べたよ。」



732:その7:2007/01/31(水)15:07:49ID:y+dfwiSU0
「元に戻すまでは、もう逃げられない。」
そう観念し、発掘物は紙袋に入れてリュックにしまうことにしました。
昔から諦めは早いほうでしたから。

しかし、やはり何かと心細いので居間のある1階にいることにしました。
そのうちまた睡魔が襲ってきました。

--------------------------------------------------------------------

「くーびなしっ!」
「くーびなしっ!」
「くーびなしっ!」
首の短いあの子に向かってクラスのみんながはやし立てていました。
私もつい調子に乗って
「くーびな・・・」
その子が私のほうへ振り向きました。

四白眼でした。

--------------------------------------------------------------------

もう東京に一人で戻る気力は残っていませんでした。
両親には、その年度の後期と次年度の前期を休学扱いにしたいと懇願しました。
単位をとるためには東京でテストを受けなければならないからです。
どんな嘘をついたかもう覚えてはいませんが、何とか両親を説得することは出来ました。

時が経つにつれ、その子は目覚めているときの私の視界にも姿を現し始めました。
いつもというわけではありません。
時折、視界の一番片隅にいてあの目で私を見つめているのです。
でも、そこに目を向けるともういません。
それでいて、いつの間にかまた視界に入ってくるという具合です。



733:その8:2007/01/31(水)15:08:10ID:y+dfwiSU0
とにかく春が待ち遠しくてたまりませんでした。
日々降り積もる雪をこんなに恨めしく思ったことはありません。
夢ではあの木造校舎の中で、現では視界の片隅で、という形であの子が私を解放してくれることはありませんでした。
私は日々衰弱して行きました。

幸いなことにその年は道内各地で例年よりも雪解けが早く進みました。
おかげで4月の下旬には私はあの地へ向かうことができました。
でも、もう遅すぎたのです。

あの炭住も炭鉱会館もすっかり取り壊され、その跡は更地になっていました。
地元のお寺で供養してもらおうとも考えましたが、集落の菩提寺はとうの昔に廃寺となっていました。

私は発掘物を元に戻すすべを完全に失っていました。



734:その9:2007/01/31(水)15:09:12ID:y+dfwiSU0
札幌の向かう列車の中で、私はこれまでのことをぼんやりと思い起こしていました。
不思議なことに、あの子の姿が私の視界に現れることはもうなくなっていました。
そのうち、例の寄せ書きノートをまだしっかり読んだことがないのに思い至りました。

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酷い寄せ書きでした。
クラス全員がその子を「首なし」と呼びつけ、
そして「中学では一緒のクラスになりたくない」だのあるいは「中学には来るな」だのそんなことばかりが書いてあるのです。

読み進むうちに、あることに気づきました。
寄せ書きを記した子供の名前に赤鉛筆で二重線が引いてあり、その脇には1985.1.12のような年月日が付されているのです。
子供によって年月日はばらばらですが、ごく最近のものもあります。
「何だろう、これは?」
そう考えていくうちに強い不安がよぎりました。
「まさか俺の名前はないよな?! おいおい!!」
残るは最後の1ページです。
思い切ってめくりました。

そこには、二重線が引かれた私の父親の名があり、脇には、その日の年月日が記されていました。



736:その10:2007/01/31(水)15:13:20ID:y+dfwiSU0
以上で終わりです。
Tenho que dizer tudo isto e uma ficcao e nao tem nada a ver com as pessoas existentes.



引用元:死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?156
https://hobby9.5ch.net/test/read.cgi/occult/1169205119/724-736




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