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都市伝説・・・奇憚・・・blog

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ー霊障ー <沙耶ちゃんシリーズ>

2017.11.14 (Tue) Category : 創作作品

652:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/07(木)23:43:55ID:8xFSOoXu0
<霊障-1>
初めに断っておきます。俺の書く話は、筋は実話だけど設定はデフォルメしてある。
特にこの章はかなり狂わせてあるんで、似通った現場があったとしても別物。
だから近場の人は気にせんでください。

沙耶ちゃんの大学生活もあと1年を切った初夏のことだ。
ゴボウのようにどす黒い顔とやせ細った親父の面倒を看ていたとき、彼女から電話があった。
「火傷ってすごく痛いんですね」
はあ???
他愛のない話だった。
今朝、独り暮らしの沙耶ちゃんが朝飯を作ろうとしたときに、蒸気で指を痛めたらしい。
むしろ
「火傷って初めてしました」
って彼女の言葉のほうが、俺にはビックリだったよw

火傷の痛みがわかったので供養に行きたいところがある。車を出してほしい。
彼女はそう言った。
付き合いが長いんで意味はすぐにわかる。
火傷が元で死んだ誰かの残留したエネルギーを慰めたいんだな。

親父の所にいることを告げると
「わかってます」
と言われた。そして
「私もそのうちにご挨拶に伺っていいですか?」
と付け足してくる。
二つ返事したのは言うまでもない。

親父の病室に戻ると
「お前もそういう歳になったか」
と笑われた。
「孫の顔までは待ってられんが、結婚式ぐらいなら行ってやるぞ」
とも。

一瞬、沙耶ちゃんが生霊でも飛ばして挨拶に来たのかと思ったよ。
ま、電話の相手が女だと悟った親父の冗談だったと、今では思ってるけどね。



653:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/07(木)23:46:08ID:8xFSOoXu0
<霊障-2>
自宅アパートに戻った翌日、休日だったこともあって、さっそく沙耶ちゃんを乗せて早朝に出発した。
今回の目的地は片道4時間はかかる山中のトンネル。
途中でメシ食ったり観光したりと、ちょっとしたデート気分を味わえたww

沙耶ちゃんがそのトンネルを知ったのは中学生のときらしい。
親父さんが主幹線と間違えて入った旧道の途中に、ぽっかりと孤独に口を開けていたそうだ。
「まだトンネルが見える前から、高い叫び声がずっと聞こえてたの。。。。『いいいいいいいいいいい』って感じで、すごく険のある声」
沙耶ちゃんの透明感のある高音で真似されてもピンと来なかったが。

「見たくなくてトンネルの中はうつむいてたんだけど、声だけは聞こえるでしょ。。。あのね。。。」
そこで言葉を切って、
「あ、ごめんね。今から行くとこなのに、こんな話したら気味悪いよね?」
と俺に確認。
「何をいまさら」
と笑って返した。

安心したように彼女は続ける。
「トンネルの中には男の人がいたみたい。んと。。。たぶん、まことさんよりも若い人。その人がトンネル中を走り回りながら『熱い熱いっ』って叫んでるの。。。。。。怖かったあ」

そんな場所になぜ自分から行くかなあ。
沙耶ちゃんに『浄霊行脚』の供を頼まれるようになってからずっと持っていた疑問は、最近、解けつつある。
彼女は『正しく使う』ことで、自分の能力を肯定したいんだ、きっと。

予備知識を避けるために沙耶ちゃんには言わなかったが、そのトンネルでは確かに焼身遺体が見つかっていた。
若年者同士の抗争で負けたグループの1人が、灯油をかけられて火達磨になってる。
換算すると、事件は沙耶ちゃんがトンネルを通った2、3年前ということになる。

霊も新しい(?)ほうが活性化しているっていうのが俺の思い込み。
だから、今回、10年以上経った古い霊体への対面は期待ハズレかもしれないな。



654:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/07(木)23:48:26ID:8xFSOoXu0
<霊障-3>
夜に近いほうが視やすいだろうとゆっくり来たが、午後3時には問題のトンネルに着いてしまった。
「出直そうか?」
と沙耶ちゃんに問うと、
「えー。夜なんか怖いからイヤですよお」
と文句を言われた。何しに来たんだよ、まったく(笑)。

左を下に激しく傾いている道路。
その上に垂直に立っているトンネルは、入り口がいびつで、確かに不安定な感覚を覚える。
地元では心霊スポットとして有名なようだが、こういう三半規管を狂わす作りも関係しているのかもしれないな。

車を路肩に止めると、沙耶ちゃんは躊躇なく助手席から降り立った。
トンネルを囲む木々をぐるりと見回し、耳に軽く手を当てる。
「まだいるみたい」
振り返った彼女の瞳は真っ黒だった。
沙耶ちゃんの後ろについて俺もトンネル内に足を入れた。一応車道だ。
集中してる沙耶ちゃんが轢かれないように注意していてやらないと。

沙耶ちゃんは、重い闇とかすかな西日の留まる坑内をどんどん進み、中央部の、巨大な落書きがされている左の壁に対面して止まった。しゃがみこみ、歳月を思わせる黒ずんだ壁に指を這わせる。
何も感じない俺は、せめて邪魔にならないように、彼女から5mぐらい離れて背を向けた。

持参した水筒の水を供えている音がする。
数日前、
「火傷ってどうしたら治るんですか~?」
と泣きそうな声で電話してきた沙耶ちゃんの様子を想像して、つい口元がほころんだ。


(続きは『続きを読む』をクリック)





655:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/07(木)23:50:41ID:8xFSOoXu0
<霊障-4>
俺は、霊を視る力はまったくないが、五感は少しだけ優れている。
だから、真後ろに突然現れた音が、人の駆け寄る音だっていうのもすぐにわかった。
半瞬遅れて沙耶ちゃんの悲鳴が上がる。
振り返ると赤黒く爛れた頭頂部が見えた。
そいつは俺の背中から俺の中に進入してきた。
ものっすごい痛みが背中から心臓を刺し、俺は意識を持っていかれた。

背骨の折れる激痛と心臓が弾け飛ぶショックの断続に、死んだほうがましだと本気で思ったね。
意識は覚醒と撃沈を繰り返している。
のた打ち回るうちに、今度は別の不快感が顔面に競り上がってきた。
熱い。頭を炎が覆ってる。耳や目や口から入り込んで、脳を焼いてる。

沙耶ちゃんの声が聞こえた。言ってることはわからなかった。
でも「起きろ」と言われた気がしたんだ。
強引に上半身を起こすと、すでに炭化していた俺の頭が地面に落ちた。
。。。。。。死んだのかな、俺。もう熱くも痛くもない。

「出てってください!」
沙耶ちゃんが嗚咽交じりに叫んだ。
聞こえるってことは。。。まだ、俺、生きてる。。の。。。か。。。?
目を開けると頬の下にアスファルトの冷えた感触があった。
頭が落ちたと思ったのは全身が倒れたってことか。
首だけ巡らせて振り返ると。
沙耶ちゃんが、俺の体から人型の炎の固まりを引き抜こうとしていた。

火は沙耶ちゃんの両腕にも巻きつき、焦げた肉のにおいを誘っている。
沙耶ちゃんは目をきつく閉じて、この現象に惑わされないようにしているようだった。
焼死した霊は、怒りの色なのか、全身を真っ赤に染めて抵抗している。

「もういいから手を離せっ!」
俺はかなりヤケクソで沙耶ちゃんに怒鳴った。
沙耶ちゃんは反射的に目を開いた。そして。。。燃えてる自分の腕を見たんだろうね。
凍りついた表情で崩れ落ちた。

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

けたたましい呪詛の声がトンネル内に響く。
炎は、大きくフラッシュしたあと、霧散した。



656:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/07(木)23:53:42ID:8xFSOoXu0
<霊障-5>
沙耶ちゃんが助手席で目を覚ましたとき、車はトンネルのある峠を抜けて街へ向かっていた。
「腹減らない?早いけど晩飯にしようか」
俺はあえてさっきのことには触れなかった。
実際、エネルギーを消耗して、ものすごく空腹だったし。
「。。。おなか空いてます」
沙耶ちゃんも同意した。

市街地に入って一番のファミレスに入り、席を確保すると、緊張の糸がやっと解けた。
俺たちは意味不明に笑いあい、ため息をついた。
「あれが霊障ってヤツかあ。。。あんまりにも直接的だったんで驚いたよ」
「私も初めてです」
短く答えた沙耶ちゃんは、急に、俺の隣りに位置を移してきた。
「今まで言えずに来たんですけど、やっぱりまことさんには伝えておいたほうがいいと思う」

俺の左腕にまきつき、真剣に見上げる沙耶ちゃんの視線を、正直、どう受け止めたらいいのかわからない。
ついヘラッと
「どんな告白でも歓迎だよ」
といなしてしまった。
それじゃあ、と彼女は話を続ける。
「生きてる人間は、全員って言っていいほど、密かに守ってくれる存在がいるものなの」
「うん。守護霊ってヤツだろ?」
別に目新しい情報でもない。
「そう」
沙耶ちゃんの瞳は、微妙に暗褐色を帯びてきた。
「でも、ごくごくたまに、誰も憑いてくれていない人がいるの。それがまことさんと私なの」
なんとなく反論したくなった。
「でも、別に困ってない」
ガキだ、俺。。。



657:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/07(木)23:56:52ID:8xFSOoXu0
<霊障-6>
真面目に聞くと、沙耶ちゃんの話は大いに理解できた。
憎まれっ子世にはばかる、って諺があるだろ。
現実に、他人に憎まれてるのに、なぜか本人はその自覚がなく、のうのうと世の中のいい位置を確保しているなんて例はたくさんある。やつらがそこまで鈍くいられる理由、それが『守護霊の数(もしくは強さ)』なのだそうだ。

守護霊は憑いている人間を無条件で盛り上げる。
自分の宿り木である主が、迷ったり悩んだりしては、自分たちの存続も危うくなるからだ。
守護霊に盛り立ててもらっている人間は、そこそこの努力で勝ち上がっていく。

逆に、守護霊の力の弱い人間は、勝ち上がるために自分自身を高めていかなければならない。
途中で挫折することも多い。
俺たちが家族に恵まれなかったのは(沙耶ちゃんに関しては後日説明する)、この法則で見れば、当たり前のことだったんだ。

「守護霊というのは、本体の人がトラブルに見舞われたときに、ダメージを軽くしてくれるオブラートの役をするの」
「なるほど。じゃああの焼死した霊は、俺たち以外を襲ったら、あそこまでやりたい放題できなかったわけか(笑)」
「うん。。。」
沙耶ちゃんはうつむきながら、少し微笑んだようだった。
「だから、私は、普通の人みたいに霊になんか惑わされない生活をするために、人助けをして私自身の守護霊力を高めたいの。」

『人助け』って言うのがピンとこなかったが、ちょっと考えたらわかった。
人=不成仏霊のことだったんだな。あいつらは願ってることが単純なんだ。
痛みから解放されたいとか食い物がほしいとか。だから『助けやすい』。

そして、やつらが成仏すれば、そのぶんだけ沙耶ちゃんは格を上げることになる。
「私って、私のためにしか行動しないんだね」
と自嘲する沙耶ちゃんに、
「どっちの得にもなってるんだからいいんじゃねーのw」
とフォローする俺は、間違ってないぞ、きっと。



658:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/07(木)23:58:15ID:8xFSOoXu0
<霊障-7>
「ありがとう。でもね」と最悪のコラボを組み合わせて反論してきた沙耶ちゃん。
「私はもっと欲張りになってる。生きてる人も救って、私の徳にしたくなってる。そのために、まことさんを毎回連れ出してたの。私のそばで不浄霊を一緒に救ってもらえば、まことさんの徳も上がるから。それに。。。。」
なんか。。。次の言葉は想像がついちゃってたんだけどね、俺。

「まことさんは、私と一緒にいるのが楽しそうだったから。。。まことさんに喜んでもらえたら、私、もっと早く人並みになれる気がする」
「沙耶ちゃんは。。。酷な人だねえ」
正直、かなり本気で凹んだ俺は、精一杯の皮肉を返した。



675:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/09(土)00:44:21ID:+//caGOt0
<霊障-8>
表面上は普通に話をしたが、内心かなり気まずい飯を終え、俺たちは店を出た。午後6時。
山に囲まれた市街地はすでに夜と言っていい。
車に乗る前に沙耶ちゃんに聞いた。
「もう1回、トンネルに戻っていいかな?」
かなり深い意味を込めて。
沙耶ちゃんは、しばらく地面を見ていたが、小さな声で
「はい」
と答えた。

俺は、俺の中にくすぶっている怒りが、沙耶ちゃんへの未練だと認識していた。
俺の理想どおりの振る舞いと期待を高めてくれる言動の数々。
愛しく思ってたからね。
それが『俺のためのパフォーマンスだった』と聞かされても、すぐには気持ちは冷めないわけだ。

『徳を積む』という考え方は、宗教がかっているとはいえ、心理を突いているような気がした。
善行を繰り返し、自分自身を善人として確信することができたなら、世間に溢れてる些細な悪意なんかに惑わされることはないだろう。沙耶ちゃんらしい『強さ』の求め方だと思う。
それなら、沙耶ちゃんはどこまで善意を貫けるのかな。
もし。。。もし、俺が彼女に予想外の不利益をもたらしたとしたら。。。
俺はこのとき、沙耶ちゃんの同意不同意関係なく、トンネルに着いたら彼女を襲うつもりだった。



677:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/09(土)00:46:48ID:+//caGOt0
<霊障-9>
山中のドライブは30分ほどかかる。
助手席で足を畳んで小さくなっている沙耶ちゃんの気を紛らわすために、俺はトンネルで起こった事件の概要を説明し始めた。

「俺さ、フリーターになる前は、一応ちゃんと就職してたんだよね。ちょこっっっとマスコミ入ってる会社(笑)。そのときの知り合いに、あのトンネルの事故事件の過去録を聞いてみたわけ」
沙耶ちゃんは無言で顔を向ける。

「そしたら、やっぱり陰惨なリンチがあってさ」
と、<霊障-2>で書いた内容をそのまま伝える。
「そういう目に遭ったヤツなら、祟るのも無理ないと思うよ」
「。。。。燃やされただけじゃ。。。ないと思います。。。」
沙耶ちゃんの口調は、今までに聞いたことがないくらい重い。
「背中から何回も刺されてて。。。骨が折れてもやめてもらえなくて。。。もう死にたいって思ったときに、頭にだけ灯油をかけられて燃やされたの」
聞いてて心臓が痛くなった。さっきの記憶が再現される。

「熱くて錯乱してたみたいです。火を消したくてトンネルの中を走り回って。。。目も見えないのに。。。」
沙耶ちゃんは続ける。
「頭だけが燃えてるってわからなかったから、壁に体をこすりつけてたんです。血だらけになった背中を。。。そしたら、皮膚がむけて壁に貼りついて。。。まだ血の跡が残ってました」
「水を供えてたのは、その現場だったんだ」
「はい。。。。いろいろと教えてもらってました」
沙耶ちゃんは視線を遠くに移した。



683:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/09(土)00:49:19ID:+//caGOt0
<霊障-10>
トンネルに着いた。
。。。着いちまった。
とりあえず、さっきの路肩に車を停め、エンジンを切った。
日中の暑さが嘘のように夜気は冷え切っていた。
頭の中で何度も手順は繰り返した。
行使するタイミングを計る。。。。いやまあ、ふだんからそんなことばかり考えてたからさ(汗)。
沙耶ちゃんは、シートベルトを外したが、膝を抱えたまま動かなかった。

「車から出ないの?」
と半ば祈りながら聞いた。わずかに理性は残っていた。
「まことさんが気がすむまでこうしてます」
沙耶ちゃんの言葉が、ことさらに偽善的に聞こえた。

俺は彼女の肩を押さえつけてシートに倒し、唇を貪った。
沙耶ちゃんはかすかに呻いたが、抵抗はしなかった。
でも薄い肩に/はガチガチに力が入ってた。嫌がっている。
けれど止まらない。この機会を逃したら次はない。
ひどくせっぱつまった欲求が俺を支配していた。救われたい。委ねたい。恐怖から逃れたい。安らかになりたい。
俺の感情じゃねえよ、これ。

強引に身を起こして沙耶ちゃんから離れた。
俺の中の何かが彼女の上に戻ろうとして体を引っ張る。
慌てて運転席のヘッドレストをつかんだ。
沙耶ちゃんは泣きながら
「。。。やっぱりこういうのはヤダ」
と言った。
俺は車から飛び出した。



688:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/09(土)00:54:36ID:+//caGOt0
<霊障-11>
落ち着くまでの間に2台ほど車が通り過ぎた。
1台は、ガードレールに腰掛けた俺にビビって反対側の山肌に突っ込みそうになっていた。
新たなスポット伝説の始まりかもなw

対面に停めた車の中の沙耶ちゃんは顔を見せない。
様子を見に行くこともできない。
だんだん腹が立ってきた。
なんで俺はこんな寒いとこで当てもなく待たなきゃならないんだ?!
。。。いや、全部俺が筋立てしたんだけどさ。。。orz

『あいつ』は、まだ俺の中に残ってるんだろうか。
どうしたら全部追い出すことができるかな。。。
成仏させればいなくなるのはわかってる。だからあいつになりきって考えないと。
何が未練なのか。何をしたら満足して逝けるのか。

昼間の幻覚の中、あまりの苦痛に、俺は「早く死にたい」と思ってた。
頭が焼け落ちたときは、恐怖よりも楽になれた喜びの方が大きかった。
だとすれば、もう死んでいるあいつに肉体的な苦痛はないってことか。

沙耶ちゃんを襲ったのはなぜだろう。霊も欲求不満になるのか??。。。いや、違う。真面目に考えろ。
「救われたい」「委ねたい」「恐怖から逃れたい」。
激しい恐怖感と激烈な興奮状態が、最期のあいつには区別がつかなかったんじゃないか?
だからといって、セックスであいつを満足させるのは真っ平だし。



689:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/09(土)00:55:15ID:+//caGOt0
<霊障-12>
もう一つだけ、思いつく浄化の方法が、ある。
俺は周りを見回した。あいつがどこにいるのか知りたかったから。
でも、やっぱり俺には何も見えない。
仕方がないので、当てずっぽうの方向に向かって呼びかけた。
「カリノツヨシ、そのへんにいるのかい?」
あいつの名前だ。
。。。反応はない。返事ぐらいしろよなあ。
尻のポケットに入れておいた手帳を繰って、ページを読み上げた。

「正犯フジタユウヤ。現在近くのM市K町在住。妻、子ども2人あり。共同正犯タカミシンヤ。現在○○県Y市Y町在住。妻、子ども1人あり。同じく共同正犯・・・(略)」

俺なら、だよ、俺なら、自分を殺したやつらがわかったら、こんなところで自縛してないで復讐に行く。
カリノが同じように考えるかはわからないけどね。

沙耶ちゃんが車から下りてきた。
「書いて残してあげてください。情報が多すぎ」
俺はトンネルの中にスプレー缶が転がっているのを思い出した。
壁に大きく犯罪者たちの名前を吹きつけてやる。
なんだか楽しかった。
さっきまでのイライラとした気分が、嘘みたいに消えてたよ。



709:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/10(日)01:46:53ID:Nc5xjCme0
<霊障-13>
車に戻って、少し思案する。
このままトンネルを抜けて走れば、自宅までの最短距離になる。
もしトンネルを避け、さっきの街まで戻って迂回すれば、1時間以上は遠回りになるはずだ。

「少しでも早く家に帰りたい?」
沙耶ちゃんにそう聞いた。沙耶ちゃんはドア側に身を引きながら
「まだどこかに寄るんですか?」
と不信感を顕わにしている。質問の仕方が悪かったか。

「そうじゃなくて、このトンネルを通る勇気があるかどうかってことだよ」
と説明を重ねると、彼女は
「あの霊は怖くないけど、まことさんがまた変なふうになるのは怖い」
と答えた。

謝罪以外に言葉が出ないよ。
「じゃあ、迂回するか」
エンジンをかける。インパネのわずかな明かりに照らされた沙耶ちゃんの瞳の色は、ふだんの赤褐色に戻っていた。

二度切り返して、トンネルに背を向けて走り出して、すぐ。
沙耶ちゃんが
「見えない」
と呟いた。



710:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/10(日)01:48:21ID:Nc5xjCme0
<霊障-14>
「見えないって、何が?」
ハンドルを握りながらちらりと見ると、彼女は戸惑った表情で、フロントの先に視線を彷徨わせている。
「何がって。。。何も。。。見えてたものが見えなくなってる」
そう言うと、座席の上で抱えていた膝に顔を埋めた。
「霊が見えなくなってるってこと?。。。んー、でも、そういう能力とは無縁になりたかったんじゃないの?」
俺は無神経に笑った。

「こんなに突然だと嬉しくないよ。。。。まことさんにはわからないだろうけど」
チクッと嫌味を投げてくる沙耶ちゃん。
「いい機会だから、霊とか宗教とかって電波系に逃げてないで、まともな生活観念を持ちなよ」
なぜ俺は応戦してるんだろう。
「見えないものを否定するだけの人生って楽でいいでしょうね」
だから、なぜ沙耶ちゃんと喧嘩になるんだ?

「楽じゃねーよ。こんな厄介な女に道連れにされてさあ」
「ずいぶんはりきってましたけど?当たり前ですよね。下心全開だったんですから」
「ばあか!3年も我慢してやったのに、いまさら焦るか」
俺。。。ひたすら自爆しまくる。。。
「じゃあ、さっさとそういうことして、さっさと愛想を尽かせてくれたらよかったじゃないですか!」
はあ?沙耶ちゃんの言うこともさっぱりわからなくなってるぞ。

「私は、その。。。男の人とああいうの、したくないんです。。。」
急にトーンダウンした沙耶ちゃん。彼女の『本音』を聞き逃したくなくて、俺は、再度、車を道端に停めた。
「きれいな感じがしないし。。。それに、私の求めるものとは正反対な気がして。。。」
反論はあったが、黙ってることにした。
間を置いて、沙耶ちゃんは続ける。

「私、浄化のイメージが好きなんです。体っていう生っぽいものを捨てられそうだから。早くそういうところに行きたい」
「汚れた魂が昇天してくれるのは嬉しい」
「この世界には居場所がない。私には釣り合わない。好きになれる人もいない」

そこまで言って、沙耶ちゃんはドアのロックを外した。
俺はすぐにロックをかけ直し、彼女を押しとどめた。
「外には出るなよ。そっちは崖なんだ」
沙耶ちゃんは、諦めたように、座席に身を沈めた。



711:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/10(日)01:49:24ID:Nc5xjCme0
<霊障-15>
朝が早かったせいか、猛烈な眠気に襲われた。
高速で帰ってる途中のことだ。
沙耶ちゃんはすでに寝息を立てている。
仮眠を取るつもりで入ったパーキングエリアは、車が極端に少なくて、なんとなく居心地が悪かった。
とりあえず車外に出て深呼吸をする。

そうだ、と思い至った。時計を見ると0時前。まだ会社にいるな。
携帯からダイヤルすると、予想通り元の上司が出た。
トンネルについて教えてくれた相手だ。
「眠気覚ましに話に付き合ってください」
と頼むと、向こうからも
「歓迎だ」
と返事が来た。

俺 「今、例のトンネルに行ってきた帰りなんです」
上司「いい歳して、本当に肝試しなんかしてんのかwで、なんか出たの?」
俺 「出ましたよ。すっげえのがw」
上司「マジ?男と女のどっち?」

?????
女ってなんだよ?

俺 「出たのはカリノですよ。先輩に聞いてたまんまの姿でした」
上司「そっちのほうかあ。やっぱり女のほうはガセなのかな」
俺 「何の話ですか?」
上司「あれ?言わなかった?リンチ焼殺事件の二ヶ月前に、そのトンネルの付近でカリノのオンナが行方不明になってるの」
俺 「知らねー。。。詳細ください」



712:まこと◆T4X5erZs1g:2008/08/10(日)01:51:06ID:Nc5xjCme0
<霊障-16>
カリノには、一方的に想いを募らせていた相手がいたようだ。
名前まで聞かなかったが、20代前半の女性だったらしい。
カリノは素行が悪く、地元では嫌われ者だった。
当然、女性もカリノには警戒していたという話だ。
彼女は突然姿を消した。
彼女の車だけが、あのトンネル付近の峠道で、全焼という形で見つかった。
カリノは警察にマークされたが、証拠は見つからなかった。
カリノを殺したのはヤツのワル仲間だった。
正犯のフジタ以下数名は、捕まったあとにこう供述したようだ。

「カリノは追い回していたオンナをレイプして殺し、山中に捨てた。車は焼いた。うすうすそれに気づいた俺たちは、カリノを同じ目に遭わせてやろうと思った。なぜかはわからない。誰も反対はしなかった」

「祟りだね」
と上司は小気味よさそうに笑った。
「でも、本当のところはどうだか。オンナの遺体が見つからなかったから、警察は、カリノが腹いせに車だけ盗んで燃やしたって見解になったみたいだぜ。オンナはどこかに逃げたんだろう」

俺は窓越しに沙耶ちゃんを見ていた。さっきのこの子は、本当に沙耶ちゃんだったのか。。。

「まあ無事に帰ってこられて何よりだ。今度会社に顔出せ。話がある」
上司はそう言って電話を切った。

ややこしくて頭が飽和状態だ。
今日は、誰が誰にすり替わっていたのか。。。
俺は車に戻り、エンジンを始動させる気力もなく、座席を倒した。
まあいいや。今は寝てしまおう。
すべては明日、沙耶ちゃんの寝ぼけた顔を見てから考えよう。

fin




引用元:【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ4【友人・知人】
https://hobby11.5ch.net/test/read.cgi/occult/1216318669/952-712



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