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都市伝説・・・奇憚・・・blog

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2024.11.22 (Fri) Category : 

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マセラティおじさん(6)

2019.02.25 (Mon) Category : 創作作品

130:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:25:31ID:OzhAcJcS0
もう冬が終わろうとしていた。
みんな暖かい春を心待ちにしている中で、僕だけは鬱な気分だった。
理由は簡単である。もうすぐ三ヶ月。
呪いが、いつ来てもおかしくないからだ。

その鬱のせいで、バイオリズムが狂ったのだろう。
季節の変わり目という煽りも受けて僕は、見事に風邪をこじらせてしまった。
大人しく家で寝る羽目に。高熱で、ふらふらだ。寒気が止まらない。

僕は、布団にくるまりながらもなお、ガタガタと震えていた。身体が衰弱しきっている。
叔父は、一昨日から家には帰って来ていない。
冷凍食品を買いだめしておいてよかったと、心底ホッとした。
こんな身体じゃ、とてもじゃないが買出しなんか無理だ。

もしこんなとき母親がいれば、やっぱりお粥とか消化にいいものを作ってくれるのかな?
母親がどんな人なのか分からないまま育った僕は、そんなことを考えながら眠りに落ちた。

気付いたら僕は、学校の教室に、たった一人で佇んでいた。
なぜか二年の教室ではなく、三年の教室にいた。
僕はいったい何でここにいるんだ?そんな疑問は、すぐに絶望へと変わった。
そこが音の無い世界だったからだ。僕の大嫌いな世界…。
くらっと眩暈がした。呼吸が、どんどんと荒くなる。
とうとうこの日が来た。
僕は、完全にその場に固まってしまった。目だけ動かすかたちで、周りを見る。

教室の蛍光灯は、片っ端から粉々にされていた。
かろうじて教壇の上にある一本の蛍光灯だけが、弱々しい光を放っている。
黒板の上に掛けられた時計も、ガラスの部分がバキバキに割られ、中の針は握りつぶされたように丸まっていた。
教室の窓ガラスも、何者かによって全て割られて、なんとも無残な有様だった。

その窓の外は、何も見えない漆黒の闇である。見るだけで吸い込まれそうな暗黒地獄が、教室の外に広がっていた。
風もないのに、カーテンが「こっちにおいで」と手招きするがごとく、ゆらゆらとなびいている。
あまりの異様な光景に、絶句してしまった。

ギュイーン ギュオーン ギュワーン ギュオーン
いきなり無機質なチャイムがしたので、身体がビクッと反応し、机にぶつかった。
音程が外れ、ねじって歪めたような音。それが、学校中に鳴り響いた。



131:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:26:54ID:OzhAcJcS0
「おえああ、あいおあいえあう(これから、狩りを始めます)」
滑舌が悪い校内アナウンスが流れる。明らかに人間の声じゃない。

やばいやばいやばいやばい…
もう完全に頭の中がパニックだった。汗が、ポタポタと床に落ちる。おっさんは一向に現れる気配がない。

時間にしておよそ数分。自分には何十時間にも感じられた。
ふいに人の足音が聞こえた。それに混じって、男と女の言い争う声。
どんどんこっちに向かってきているのが分かった。おっさんなのか?それとも…。
人の声ではあるが、明らかに二人いる。逃げようにも、すぐそこまで声が迫っていた。
心臓が爆発しそうだ。そして…

「あ、いたいた。やっと見つけた。」
おっさんが廊下から教室を覗き込んでいた。
「二年の教室にいないから探すのに苦労したよ。」
肩の力が抜けるのが分かった。思わず安堵のため息が出る。久しぶりに見るおっさん。
「もう君とは会わないようにしよう」
と言われて以来、全く会っていなかったので、懐かしかった。

「探すのに苦労したのはこっちの台詞よ。」
と、女性の声。おっさんの背後に、その声の主と思わしき人が見えた。
すらっとした身体に、パリパリの黒いパンツ、そして黒いライダースジャケット。肩までかかるさらさらの髪。
蛍光灯の明かりが廊下まで届かないので、顔までは見えなかった。
「あんたさ、ケータイくらい持って行ったらどうなの?」
その人が、おっさんに怒鳴っている。
「使い方が分かんねぇんだよ。」
おっさんは、そう言いながら僕のもとにやって来た。

間近で見るおっさんは、実に頼りなさそうだった。
頬はこけて、髪が乱れている。無精髭もうっすら生えていた。声もどこかしら元気がない。

「君に紹介するよ。あの人は俺の仕事仲間でね。名前は『ハル』さんだ。」
そのハルさんと言われる人も、教室に入って来た。

「君が○○(僕の名前)クンね?話は聞いているわ。」
若い女性だった。見た目は20代後半くらい。顔は、芸能人に例えるなら夏目雅子に似ている。
今のおっさんとは対照的で、すごくきれいな人だ。



132:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:27:25ID:OzhAcJcS0
ハルさんは、挨拶がてら僕にいろいろと話してくれた。
まず、おっさんがよく使っている爆竹の音がする技。
あれは、たいていの相手であれば、一撃で葬れるほど強力なものだそうだ。まさに一撃必殺の技。
足止めにしかならないものだと思っていたので、すごいびっくりした。

「強力だけど、術者の身を滅ぼす危険もあるわ。」
とハルさんは言う。
そんなのを二発食らっても死なない呪い。つまり、それだけ呪いも強いわけで。
そんなおっさんをサポートするために、新たにハルさんが加わったそうだ。
「よろしくね。」
ハルさんが、僕に微笑んだ。

「いうう、おういんいうあえいえうああい(至急、職員室まで来てください)」
また校内アナウンスが入る。

「どうする?行く?」
おっさんが、笑いながらハルさんに聞いた。
「馬鹿じゃないの?死にに行くつもり?」
「冗談だよ。さすがに、こんな身体じゃ今日は無理。」
「あんたの冗談は、冗談に聞こえないわ。」

おっさんとハルさんって夫婦なのか?
二人が話している間、僕が会話に入り込める余地は全く無かった。完全に、受け身の状態である。
僕は、複雑な気持ちだった。おっさんを取られたような気がして、ハルさんにちょっと嫉妬してしまった。

「とにかく奴が仕掛けてくる前にここを出よう。」
と、おっさん。
「そうね。」
ハルさんも頷く。

おっさんとハルさんは、机や椅子をどけ、出来たスペースの真ん中に僕を立たせた。
その僕を挟むようなかたちで、二人が立つ。僕の前方にハルさん、背後におっさんという感じ。
「これやると、死ぬほど疲れるから嫌なんだよなぁ。」
背後から、だるそうに呟くおっさんの声が聞こえた。
「あんたがケータイ持って来ないから、これやる羽目になったんでしょうが。」
ハルさんもだるそうに言う。何か始める気らしい。



133:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:28:21ID:OzhAcJcS0
「そこから絶対に離れないでね。」
そう言うと、ハルさんは静かに目を閉じた。
後ろにいて見えないが、おっさんも同じように目をつぶったのだろう。
これから何が起こるのか全くわけが分からないまま、事の成り行きを見ている僕。
ハルさんは、精神統一しているのか、目をつぶったままだ。
しばらくそのままの状態が続くと、ふいに僕の視界が揺らぎ始めた。

電子機器が唸るようなノイズが、耳元で聞こえる。
同時に、自分の意識が身体から離れるような不思議な感覚を味わった。
自分の存在が、そこから消えるような、そんな感覚。目に映るものが、どんどん真っ白になっていく。

僕は起きた。目に映るのは、僕の部屋の天井と、シーリングライト。
夢だったのか?起き上がろうとするが、身体が思うように動かせない。
そういえば、風邪で動けないんだった。ワンテンポ遅れて、把握する。
僕は、もう元の世界に戻っていた。

あの世界とは違い、僕の部屋にある目覚まし時計が、一秒ごとにカチカチと規則正しく音を立てながら、針を動かしていた。
あまりのあっけなさに、自然と笑いがこみあげる。
今回、呪いがした事といえば、不気味なチャイムと校内アナウンスくらいだ。

目を勉強机の方にやると、椅子の背中にもたれかかって、おっさんがだらしなく座っている。
僕が起きたことに気付き、おっさんはニコっと微笑んだ。
ハルさんが見当たらない。

「ハルさんは?」
「あぁ、あいつか。風邪をひいてる君に何か作ってあげようってことで、買い物に行ったよ。」

途切れ途切れの息で、おっさんが答えた。疲労困憊しているのが伺える。
「とにかく化け物だよ、あいつは…。俺なんかこんななのに、すました顔して出て行きやがった。」
おっさんは、悔しそうだ。

「おじさんとハルさんってどういう関係なの?」
僕は聞いた。
「俺の仕事仲間。一番腕が立つ。」
「おじさんの妻?」
笑いながらおっさんは、否定した。
「あんなのが女房なんて死んでもごめんだね。ああ見えて俺より歳食ってんだぜ。」
え?僕は、思考がストップしてしまった。



134:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:28:51ID:OzhAcJcS0
「ま、正確な歳は俺も知らないけどな。でも60は裕に超えてるよ。」
ハルさんに少し惚れていた僕にとっては、とんでもない衝撃だった。
思考は停止していたが、聞いてはいけないものを聞いてしまったというのだけは分かる。

ニヤニヤしながらおっさんは、身体を起こすと、僕の布団をかけなおしてくれた。
「君を見ているとね。我が子を思い出すよ。」
そう言いながら、どこか懐かしそうな目で、僕を見ている。僕と同じくらいの歳の息子が一人いるらしい。
「ちゃんと家族に会ってる?」
心配になって聞いてみた。
おっさんは、首を横に振る。
「もうね、会えない。」

離婚して会わせてくれないのか?もしくは、仕事のために家族を捨てたから、家族に会わす顔がないとか?
この人のことだから、家族をないがしろにしていても、別におかしくないかも。
頭の中で僕は、会えない原因を推理していた。

「君も知ってるだろ?俺が呪われているのを。」
「え?」
「気付いた時にはね、もう手遅れだった。それでもあきらめずに頑張ったよ。それこそ、当時は若かったし、今より力もあった。でも…助けられなかった。」

僕の推理は見事に外れた。
おっさんの家族は殺されたのだ。それも自分の呪いに…。
「俺が殺したも同然さ。」
そう言うとおっさんは、下唇を噛んだまま、黙り込んでしまった。自分を責めているようだ。
涙こそ見せなかったが、僕はそこにおっさんの家族を想う深い愛を、確かに感じることが出来た。

「たっだいま~。」
重苦しい空気の中、何も知らないハルさんが帰ってきた。そして僕の部屋に戻ってくる。
それを合図にするように、おっさんは腕時計に目をやる。
「悪いな。俺はもう行かなきゃ。ハル、後はまかせたぞ。」
「分かった。」
とハルさん。そしておっさんは、また呪文のようなものをつぶやくと、瞬時に消えてしまった。
部屋には、俺とハルさんの二人だけとなった。



135:◆J3hLrzkQcs:2007/02/05(月)08:30:27ID:OzhAcJcS0
「君、お腹空いてる?」
もちろんお腹はペコペコだったけど、ハルさんと二人だけで食事をするのは気まずかったので
「ううん」
と答える僕。
「あら、そう。じゃあ、料理だけ作っておくわ。ちょっとキッチン借りるね。」
そう言うと、ハルさんはキッチンの方へ行ってしまった。

進学塾の定期試験が近いので、その間に勉強しようと思ったけど、意識が朦朧としているので、内容が頭に入りそうにもないので、やめた。
何もせず、天井をじっと眺めながら待つこと数十分。ハルさんが、戻ってくる。
「テーブルの上に作ったのが置いてあるわ。ちゃんと食べなね。」
声も無しに、ただ頷く僕。

「じゃあ、私もそろそろ行くね。」
そう言うとハルさんは、おっさんと同じようにその場から、ふっと消えてしまった。
部屋には、僕一人だけとなった。

だるい身体を引きずりながら、僕はリビングに向かう。
テーブルの上に、書置きが置いてあった。『早くよくなってね。ハル』と書いてある。
その横にラップがされたお椀。まだ温かいので、蒸気で白く曇っている。中身が見えない。僕はラップを取った。
卵粥だった。

それを口にする。
うまい。おふくろの味ってやつ?とにかくうまかった。

せっかく僕のために作ってくれたのに…。
ハルさんは、僕がどんな顔して食べるのか見たかったのでは?
そう考えると、すごくハルさんに申し訳ない気がした。

次の日、嘘のように風邪が治っていた。
薬の効き目なのか?それとも卵粥のおかげなのか?それは分からない。
身体が軽い。鬱だった気分も晴れ晴れとしていた。
実に気持ちいい朝である。

支度を整えると、軽快な足取りで僕は、学校へと向かったのだった。



引用元:死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?157
https://hobby9.5ch.net/test/read.cgi/occult/1170418958/130-135














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