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都市伝説・・・奇憚・・・blog

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2024.11.24 (Sun) Category : 

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―交霊実験― <師匠シリーズ>

2010.06.09 (Wed) Category : 創作作品

27 名前:降霊実験  1/9 投稿日:03/05/10 00:13
大学一年目のGWごろから僕はあるネット上のフォーラムによく顔を出していた。
 
地元のオカルト好きが集まる所で、深夜でも常に人がいて結構盛況だった。
梅雨も半ばというころにそこで「降霊実験」をしようという話が持ち上がった。

常連の人たちはもう何度かやっているそうで、オフでの交流もあるらしかった。
オカルトにはまりつつあった僕はなんとか仲間に入りたくて
「入れて入れて。いつでもフリー。超ひま」
とアピールしまくってokがでた。

中心になっていたkokoさんという女性が彼女曰く霊媒体質なのだそうで、彼女が仲間を集めて降霊オフをよくやっていたそうである。

日にちが決まったが、都合がつく人が少なくて
koko みかっち 京介 僕
というメンバーになった。

人数は少ないが3人とも常連だったので、「いいっしょー?」
もちろん異存はなかったが、僕は新入りのくせにある人を連れて行きたくてうずうずしていた。

それは僕のサークルの先輩で僕のオカルト道の師匠であり、霊媒体質でこそないがいわゆる「見える」人だった。

この人の凄さに心酔しつつあった僕はオフのメンバーに自慢したかったのだ。
しかし師匠に行こうと口説いても頑として首を縦に振らない。

めんどくさい。ばかばかしい。子守りなんぞできん。

僕はなんとか説得しようと詳しい説明をしていたら、kokoさんの名前を出した所で師匠の態度が変わった。

「やめとけ」
というのである。
なぜですか、と驚くと
「怖い目にあうぞ」

口振りからすると知っている人のようだったが、こっちは怖い目にあいたくて参加するのである。
「まあ、とにかく俺は行かん。何が起きてもしらんが、行きたきゃ行け」
師匠はそれ以上なにも教えてくれなかったが、師匠のお墨付きという、思わぬ所からのオフの楽しみが出てきた。

当日市内のファミレスで待ち合わせをした。
そこで夕食を食べながらオカルト談義に花を咲かせ、いい時間になったら会場であるkokoさんのマンションに移動という段取りだった。

kokoさんは綺麗な人だったが、抑揚のないしゃべり方といい気味の悪い印象をうけた。
みかっちさんはよく喋る女性で、kokoさんは時々それに相槌をこっくり打つという感じだ。
驚いたことに2人とも僕の大学の先輩だった。

「キョースケはバイトあるから、あとで直接ウチにくるよ」
とkokoさんがいった。

僕はなんとなく恋人どうしなのかなあ、と思った。
そして夜の11時を回るころみかっちさんの車で3人でマンションに向かった。

京介さんからさらに遅れるという連絡が入り、もう始めようということになった。
僕は俄然ドキドキしはじめた。

kokoさんはマンションの一室を完全に目張りし、一切の光が入らないようにしていた。
こっくりさんなら何度もやったけれど、こんな本格的なものははじめてだ。
交霊実験ともいうが、降霊実験とはつまり霊を人体に降ろすのである。

真っ暗な部屋にはいると、ポッと蝋燭の火が灯った。
「では始めます」
kokoさんの表情から一切の感情らしきものが消えた。

「今日は初めての人がいるので説明しておきますが、これから何が起こっても決して騒がず、心を平静に保ってください。心の乱れは必ず良くない結果を招きます」

kokoさんは淡々と喋った。みかっちさんも押し黙っている。
僕は内心の不安を隠そうと、こっくりさんのノリで
「窓は開けなくてもいいんですか?」
と言ってみた。

kokoさんは能面のような顔で僕を睨むと囁いた。
「窓は霊体にとって結界ではありません。通りぬけることを妨げることはないのです。 しかしこれから行なうことは私の体を檻にすること。うまく閉じこめられればいいのですが、万が一・・・・」
そこで口をつぐんだ。僕はやりかえされたわけだ。

逃げ出したくなるくらい心臓が鳴り出した。
しかしもう後戻りはできない。
降霊実験が始まった。

僕は言われるままに目を閉じた。
蝋燭の火が赤くぼんやりと瞼にうつっている。
どこからともなくkokoさんの声が聞こえる。

「・・・ここはあなたの部屋です。見覚えのある天井。窓の外の景色。・・・さあ起き上がってみてください。伸びをして、立つ。・・・すると視界が高くなりました。あたりを見まわします。・・・扉が目に入りました。あなたは部屋の外に出ようとしています」

これは。
あれではないだろうか。目をつぶって頭の中で自分の家を巡るという。
そしてその途中でもしも・・・という心理ゲームだ。

始める直前にkokoさんがいった言葉が頭をかすめた。
『普通は霊媒に降りた後、残りの人が質問をするという形式です。しかし私のやりかたでは、あなた方にも<直接>会ってもらいます』

僕は事態を飲みこめた。恐怖心は最高潮だったが、こんな機会はめったにない。
鎮まれ心臓。鎮まれ心臓。
僕はイメージの中へ没頭していった。

く。
という変な声がしてkokoさんが体を震わせる気配があった。

「手を繋いでください。輪に」
目を閉じたまま手探りで僕らは手を繋いだ。

フッという音とともに蝋燭の火照りが瞼から消え、完全な暗闇が降りてきた。
かすかな声がする。

「・・・あなたは部屋をでます。廊下でしょうか。キッチンでしょうか。いつもと変わりない、見なれた光景です。あなたは十分見まわしたあと、次の扉を探します・・・」
僕はイメージのなかで下宿ではなく、実家の自室にいた。
すべてがリアルに思い描ける。

廊下を進み、両親の寝室を開けた。
窓から光が射し込んでいる。畳に照り返して僕は目を細める。
僕は階段を降り始めた。キシキシ軋む音。手すりの感触。

すぐ左手に襖がある。客間だ。いつも雨戸を降ろし、昼間でも暗い。
僕は子供の頃ここが苦手だった。
かすかな声がする。

「・・・あなたは歩きながら探します。・・・いつもと違うところはないか。・・・いつもと違うところはないか」
いつもと違うところはないか。僕は客間の電気をつけた。
真ん中の畳の上に切り取られた手首がおちていた。


僕は息を飲んだ。
人間の右手首。切り口から血が滴って畳を黒く染めていた。
この部屋にいてはいけない。

僕は踵を返して部屋を飛び出した。
廊下を突っ切り、1階の居間に飛びこんだ。
ダイニングのテーブルの上に足首がころがっていた。

僕はあとずさる。
まずい。失敗だ。この霊は、やばい。
もう限界だ。僕は目を明けようとした。

開かなかった。僕は叫んだ。
「出してくれ!」
だがその声は誰もいない居間に響くだけだった。

僕は走った。家の勝手口に僕の靴があった。 
履く余裕もなく、ドアをひねる。だが押そうが引こうが開かない。
「出してくれ!」
ドアを両手で激しく叩いた。

どこからともなくかすかな声がする。
しかしそれはもう聞き取れない。
僕は玄関の方へ走った。途中で何かにつまずいて転んだ。

痛い。痛い。本当に痛い。
つまづいたものをよく見ると、両手足のない人間の胴体だった。

玄関の扉の郵便受けがカタンと開いた。
何かが隙間からでてこようとしていた。
僕はここで死ぬ。そんな予感がした。
そのときチャイムの音が鳴った。

ピンポンピンポンピンポンピンポン
続いてガチャっという音とともに明るい声が聞こえた。
「おーっす! やってるか~」
気がつくと僕は目を開いていた。

暗闇だ。だが、間違いなくここはkokoさんのマンションだ。
「おおい。ここか」
部屋のドアが開き、蛍光灯の眩しい光が射し込んできた。

kokoさんと、みかっちさんの顔も見えた。
「おっと邪魔したか~? スマン、スマン」
助かった。安堵感で手が震えた。
光を背に扉の向こうにいる人が女神に見えた。

その時kokoさんが、邪魔したわと小さく呟いたのが聞こえた。
僕は慌ててkokoさんから手を離した。
僕は全身に嫌な汗をかいていた。

僕は後日、師匠の家で事の顛末を大いに語った。
しかしこの恐ろしい話を師匠はくすくす笑うのだ。
「そいつは見事にひっかかったな」
「なにがですか」
僕はふくれた。

「それは催眠術さ」
「は?」
「その心理ゲームは本来そんな風に喋りつづけてイメージを誘導することはない。いつもと違うところはないか。なんてな」

僕は納得がいかなかった。
しかし師匠は断言するのだ。

「タネをあかすと、俺が頼んだんだ。お前が最近調子に乗ってるんでな。ちょっと脅かしてやれって」
「やっぱり知りあいだったんですか」
僕はゲンナリして臍のあたりから力が抜けた。

「しかしハンドルネーム『京介』で女の人だったとは。僕はてっきりkokoさんの彼氏かと思いましたよ」
このつぶやきにも師匠は笑い出した。
「そりゃそうだ。kokoは俺の彼女だからな」

翌日サークルBOXに顔を出すと、師匠とkokoさんがいた。
「このあいだはごめんね。やりすぎた」
頭を下げるkokoさんの横で師匠はニヤニヤしていた。

「こいつ幽霊だからな。同じサークルでも初対面だったわけだ」
kokoさんは昼の陽の下にでてきても青白い顔をしていた。
「ま、お前も霊媒だの下らんこといって人をだますなよ。俺が催眠術の触りを教えたのはそんなことのためじゃない」
kokoさんはへいへいと横柄に返事をして僕に向き直った。

「芳野 歩く といいます。よろしくね、後輩」
それ以来僕はこの人が苦手になった。

その後で師匠はこんなことをいった。

「しかし、手首だの胴体だのを見たってのはおかしいな。いつもと違うところはないか、と言われてお前はそれを見たわけだ。お前の中の幽霊のイメージはそれか?」
もちろんそんなことはない。

「なら、いずれそれを見るかもな」
「どういうことですか」
「ま、おいおい分るさ」
師匠は意味深に笑った。


 








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