都市伝説・・・奇憚・・・blog
不可解な自殺
2008.11.25 (Tue) | Category : ホラー・怪奇現象・不思議現象
これは実話ではない。かといって完全なフィクションでもない。
どこまでが事実かは、読む人の想像に任せる。ただ場所や日時を特定することはできない。
伝え聞いた話ではあるが、これを記す本人に、真偽の程が分からないからだ。
ただ、ある女性が亡くなったことは事実らしい。
数年前、一人の女性が鉄道自殺を図った。それは事後処理された後、自殺と断定された。
電車の運転手が目の当たりにしたことや、ホームにいた人たちの証言もあった。
しかし、彼女の家族と、婚約者である彼氏だけはなかなか認めようとしなかった。
彼女は二十代前半で健康に恵まれ、仕事や家族にも何ら問題はなく、前途ある未来が約束されていた。
彼女の死から月日が経ったが、結局、未来を失った彼は取り残された。
彼女との最後の会話に思いをめぐらせ、じりじりと自分の内に後退してしまった。
「これから死ぬって時に、あんな話はしないぞ」
彼は信念をもって事実を究明しようとした。自分だけが知っている真実を、世間に通用させようとした。
もしそれができないのなら、自分自身を失ってしまうと感じていたのかもしれない。
彼女はその夜会社での仕事を終え、友人と連れ立ってコンサートに行った。
終演後、かなり気分が高揚したこともあって、そのまま友人と居酒屋に入った。
話が尽きぬまま、気が付くと終電に近い時刻になっていた。
急いで駅に向かい、挨拶もそこそこ友人と別れ、一人電車に乗った。
ボーナスが出た週末ということもあって、車内は酔客やカップルなどで混んでいた。
彼女の家は郊外にあり、いくつかの乗り継ぎ駅を通過した先にあった。
異様な混み具合ではあったが、しばらく我慢すれば乗客も減るだろうと思っていた。
少しアルコールも入っているし、体も汗ばんでいる。まわりもそんな雰囲気で、朝のラッシュとは少し様子が違うなと思っていた。
さっきから、スカートの後ろに手の甲が当たるみたいだが、まさかそんなつもりではないだろう。彼女がそう考え始めた頃、手のひらが向けられた。
彼女は酔いが覚めた。恥ずかしいのと悔しいので、気持ちが混乱する。
電車のゆれにあわせ、体をよじったりするが、一向にやめる気配はない。まるでこちらの気持ちをあざけるように、その手は大胆になっていく。
背後にいる男が怪しいのだが、前後密着した状態で確認できない。 そのまま最初の停車駅に着き、彼女は車両を移ろうとした。しかし、人波に押されてホームに下りることができなかった。 それでも車内の中ほどに移動することはできた。
電車が動き出し、少し安堵していると、その手はいきなり来た。
あきらかに彼女を狙っている。人を蔑むような感触に、彼女は体を振って抗議した。
周りにいた二三人の男たちは、彼女に背を向けたり、両手を手すりに持っていったりと、それぞれが無関係であることを示そうとした。それほど彼女の動作は露骨だった。
遠巻きに見ていた男性と視線が合い、その冷ややかな顔つきに、彼女の方が狼狽した。
この次の駅で降りよう。各駅停車の終電があるはずだ。
彼女は体を硬くしたまま、そう決心した。あの手を捕まえる勇気はない。
目の前には酔って何やらブツブツつぶやいている中年男もいるし、時々顔を上げてこちらを睨みつけたりする。周囲の雰囲気に悪意すら感じ始めた。それでも、再びあの手が自分の方に向けられることはないと思った………。
突然彼女はその場に座り込んで悲鳴をあげた。
冷たい手が彼女の足首をつかんだのだ。
「大丈夫ですか」
大学生風の男が彼女に声をかけた。
車内の好奇な視線に晒されながら、しばらくは平静を装った。恐怖よりも羞恥心の方が勝っていた。
改札に向かう人々に取り残されるように、彼女は一人ホームに残った。
言い知れぬ不安に襲われ、彼女は携帯から自宅に電話した。
父親は寝ているらしく、迎えにはいけない。母親はタクシーで帰ってくるようにと念を押した。ホームにはまばらな人影があった。ある程度明るかった。にもかかわらず、思い出して体が震え始めた。彼女は彼に電話した。
「お尻にあった手がいきなり足首にきたんだよ。しゃがまない限り、そんなのありえない。でも本当なんだって」
彼女は事細かに状況を説明し、興奮気味に自分に起きたことを訴えた。
彼は安心させようと励ましながら、迎いに行くべきかもしれないと思った。
けれど無人の駅に彼女を一時間以上待たせることになる。踏ん切りがつかないまま,受話器の向こうから場内アナウンスが聞こえてきた。
「あっ,電車が来た。ごめんね,夜遅くに」
彼が最後に声をかけた時,彼女は何も答えなかったと言う。
しばらく沈黙があり,その後、
「ええっ?」
という小さな声をあげた。
彼女が線路を背にして立っていたのは,やはり背後に不安があったからだろう。
ただある目撃者の証言によれば、背中から倒れるというより,襟首を掴まれてひっぱられたようにも見えたと言う。
結局彼は会社を辞め,地元に帰った。しばらくは神経科に通院しながら,養生していたらしい。その後噂を聞かなくなったが,彼から突然連絡があった。
ある山寺で,宿坊の雑用をしながら暮らしているという。宗教に帰依することも考えているらしい。俺は休みを利用して、彼のもとを訪ねた。
季節は夏だったが、山間の風も涼しく、心地よい静寂があった。由緒ある古い寺には凛とした雰囲気があり、ここでなら彼も安静に暮らしていけるかなと思った。
夜が更け、あまり話すこともなくなり、二人黙って虫の音に聞き入っていた。
「今聞こえなかったか?」
彼は唐突にそう言った。
「ええっ?」
「そんな感じだよ」
彼は悲しげに微笑むと、ひっそり部屋を出て行った。
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