都市伝説・・・奇憚・・・blog
見つめる目
2008.01.25 (Fri) | Category : 誰も信じない人へ
お袋は最後の瞬間まで俺たちを見つめていた。
俺が病室に駆け込んだときお袋は既に話すことができない状態だった。
横をむいて苦しそう息をしているお袋。
悲愴な表情で俺を見あげる親父と妹。
それが何を意味しているのかすぐに分かった。
「先生があと5時間以内には亡くなるって・・・」
妹は俺にそう告げると、お袋の目の前の椅子を譲ってくれた。
お袋の顔を見つめる。
お袋は俺の顔をじっとみつめていた。
ときおり、視線を変え親父や妹をじっとみつめる。
その瞳には明らかに意識があった。
何かを訴えようとじっと見つめるその瞳。
俺は、その瞳を見てうなずくのが精一杯だった。
そしてお袋は逝った・・・
慌ただしく葬儀を終え、火葬場から実家に戻ってきて一息ついた。
親父と叔父(お袋の弟)と俺でお茶を飲んでいると、親父がボソッと話し出した。
「あのときの、俺を見つめていたあの瞳、どこかで見たことがあったと思ったら・・・」
親父とお袋が付き合ってしばらくして、お袋が家の事情で遠くに就職しなければならなくなり、親父と叔父がお袋を見送りに行ったときのことだそうだ。
「あいつが列車に乗りこんで俺をじっと見つめたあの瞳と一緒だった・・・」
それを、聞いたとき俺は涙が止まらなくなった。
最後の瞬間まで、お袋は本当に親父ともっともっと一緒に暮らしたかったんだろう。
伝えたいこともたくさんあったんだろう。
普段はあまりお袋のことを話さない親父がお袋の思い出を語ったことにもまた泣けてきた。
「あいつ美人だったよなあ・・・」
そんなことを言う親父を見たのは初めてだった。
本当にいい夫婦だったんだろうなとあらためて思った。
目は口ほどにものを言うそれを実感した瞬間だった。
激しくスレ違いでごめんね。
後日談。
お袋が亡くなってしばらくしてお袋の遺書がでてきた。
俺の妻あての遺書にはこう書いてあった。
「○○(俺)はお父さんに似て、優しさを上手に伝えることが出来ないけれど、本当はあなたのことを一番に思っているから」
お袋は親父のことをよく分かっていた。
親父が優しさを上手に伝えられないけれど、一番にお袋のことを思っていることを。
それを知って俺はなんだかとてもホッとした。
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