都市伝説・・・奇憚・・・blog
戻ってきたのは時計と親子の絆
2008.01.13 (Sun) | Category : 誰も信じない人へ
友だちのお父さんが、自分にしてくれた話。
彼には、物心ついた頃から母親がいなかった。
母親は、死んでしまったと、彼の父親に聞かされていた。
そして、彼が7才の時、父親が新しい母親を連れてきた。
新しい母親は、彼のことを自分の子供のように、大切に育ててくれたので、3人家族になってからの方が、彼の人生は幸せなものだった。
そして、彼が高校生になったばかりの頃、いつものように、通学路を家に向かって歩いていると、30代後半位の、着物を着た女性が向かいから歩いてきた。
彼の住んでいたところは、まだまだ当時は田舎で、田んぼや畑、山などに囲まれていた。
彼の通学路は、そんな山のふもとにある舗装すらされていない、人がふたり、やっとすれ違えるような一本道だった。
車も通れない道なので、地元の住民が(彼も含めて)、徒歩でちょっと、隣り町に用を足しに行く、という時などに使う道なので、すれ違う人たちは、必ず顔見知りなのだが、向かいから彼の方に歩いてくる女の人は、面識がなかった。
もうそろそろすれ違う、という時に、彼は立ち止まり、彼女を先に通してあげるために、一歩道から退いた。
着物を着た女性は、すれ違いざまに微笑んで言った。
「ありがとう」
そして、何かを彼の手に握らせ、そのまま何事も無かったかのように、去って行った。
彼の手のには、女性物の、上品な腕時計が握られていた。
着物の女性の腕時計なのだろうか。
道を譲って、お礼を言われるのは驚かないが、なぜ時計を? 道を譲ったお礼にしては、大げさだ。
彼は困惑しながらも、手に持った腕時計と、歩き去る着物の女性の後ろ姿を、交互に見つめながら立ち尽くした。
家に帰った彼は、そのまま自分の部屋に入った。
ベッドに仰向けになりながら、時計を観察する。
時計の針は、止まっていた。
こわれているなかな? だからくれたのか? いらないから?
もしかして、この中に何か変な物が入っているんじゃ?
あの女性は、自分を何かのワナにはめようと?
などと、考えれば考えるほど、彼の思考はあっちの方向に行ってしまい、遂に、
「よし! 分解してみよう」
という結果になった。
中に入っていたものは…若い頃の彼女らしき女性が、生後1ヶ月程の赤ん坊を抱いている、色あせた白黒写真だった。
時計の形にあわせて、切り抜いてあるその写真の裏には、昭和○年○月○日と、記してある。
その日付は、まさしく彼の生まれた日から、数週間後のものだった。
あれは、母だったのか? 自分が生まれてすぐに、死んだのではなかったのか?
そう思ったと同時に、彼の父が部屋に入ってきた。
彼は急いで、時計をまくらの下に隠した。
父の様子がいつもと違う。泣きはらしたような真っ赤な目をしていた。
父は彼に言った。彼の母親は、実は死んでなかったこと。
父親は、彼にうそをつき続けていた事を詫びた。
(これ、理由話すと長いので略)
現在、東京におり、癌を患い入院中で、もう長くないとのこと。
彼の母親が、病床で彼の名前を、うわごとで何度も言うので、見かねた彼女の弟が、彼の父に、会わせてあげて下さいと、泣きながら電話をしてきた、というのだ。
東京で入院中、では、あの着物の女性は?
彼は、父にはその日にあった出来事を話さず、次の日東京へ向かった。時計も一緒に。
再会した母は、やせ細ってはいたが、とても美しかったという。
もう、起き上がることも出来ない状態だったが、彼を見ると、自力で起き上がろうとしたので、彼は駆け寄り、
母親を支えて、上半身を起こしてあげた。
改めて、母親を見つめると、やはり時計をくれた女性によく似ていた。彼は自分のズボンのポケットから、例の時計を取り出して、母親に見せた。
母親は、その時計を見て、驚いていた。それは彼女のものだったからだ。
まだ、癌が発見される前、元気だった時に、母親はその時計をいつも、身につけて暮していた。
写真も、母親が、いつも息子と一緒にいられるようにと、その腕時計の中に、入れたんだそうだ。
ある日の朝、腕時計が止まっていることに気づいた母は、会社の帰りに修理に出そうと、バッグに入れて、会社に向かった。
そして、駅でバッグごと置き引きにあってしまったのだと。
その腕時計の中の写真が、彼女のただひとつの、彼の写真だったので、それからしばらく、彼女は泣き明かしたそうだ。
3ヶ月後、彼は母の最後を看取った。そして、彼女の細くなってしまった手首に、その時計をつけてあげた。もうなくさないよ、という言葉と共に。
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