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ー検体ー <オオ○キ教授シリーズ>
2018.01.09 (Tue) | Category : 創作作品
535:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:40:43ID:VsVHhltb0
検体 1/11
広島までの行程に備えて、車の整備をした。
今回は、なんだか、私がしっかりしないといけない気がする。
教授の、非業の死を遂げた身内に関わることなのだから。
…きっと、いつもみたいに平静な旅にはならないよね…?
出発の声がかかる前に、問題の甕を見せてもらいたくて、兄貴に頼んだ。
でも、
「駄目」
の一言。
未だに継続中の呪いが、どんなふうに跳ねるか、わからないからなんだって。
2週間ほど経って、鋭い寒さが少し和らいだ頃、教授から連絡があった。出発だ。
新幹線の車内に中国地方の駅名が流れ始めたとき。
私は、やっと、【運転手の自分】が今回の旅に必要なかったことに気づいた。
えー…。
教授、今度は私に何をやらせようと…?(汗)
536:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:41:32ID:VsVHhltb0
検体 2/11
電車内では教授といろいろな話をした。
いままでの、冒険じみた旅の話。
人間の生への執着と死への恐怖の強大さ。
死後も現世に留まる意識体(霊魂)が存在するのかどうか。
「妹さんが、もし、まだこの世を彷徨っているとしたら、教授は会いたいですか?」
と聞くと、
「ぜひ会いたいね。飢えて死んでいく気持ちを事細かに聞いてみたい」
と言われた。
やっぱり、教授の発想だ(汗)。
「そういうこと言ってると祟られますよ」
と忠言するけど、教授は楽しそうに、
「僕に降りかかるはずだった祟りは、すべて妹が受けてくれたからね。僕は長生きするよ」
と答える。
うちで身の上話をしていたときの神妙な様子は、完全に演技だったらしい…。
537:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:42:43ID:VsVHhltb0
検体 3/11
話の後半になって、問題の甕の出所について聞くことができた。
「あれは、元は、爆心地から1キロほど離れた寺院に祭られていたんだ」
教授の説明に、
「爆心地って原爆ドーム?」
と基本的なことから聞き直さなければならない私(汗)。
「そう」
教授は肯定する。
「ただ、原爆ドームに、直接、落下したわけじゃない。考えてごらん。太陽に匹敵するほどの高熱を発する爆弾が落ちたとしたら、建物の原型が残ると思うかい?」
「…」
そっか。
原爆の熱の威力って太陽並みだったんだ、と、改めて震撼する。
「実際の爆心地は、ドーム傍(そば)の相生橋で、地上に落ちる前に空中で爆発したらしいよ」
教授は補足した。
「その寺院で被爆した甕は、戦後の混乱期に盗難と売買を繰り返され、僕の家の蔵に納まった。いかにも古物だし、価値のあるものだと思われたんだろうね」
教授は甕の写真を見せてくれた。
黒ずんだ表面は気味悪く爛れて、【いわくつき】の雰囲気がありありと見て取れる。
「この溶けたような外見は、原爆で?」
と聞くと、
「たぶん」
との答え。
538:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:44:42ID:VsVHhltb0
検体 4/11
「僕の家の者は、誰も甕の出所を知らなかった。我が家には、古物商から説明された【呪い】の話が伝わっていただけだ」
「そんなものを、よく買う気になりましたね」
私は教授一家の【趣味】に呆れた。
教授は笑って言った。
「確かに自虐的な趣味だ」
でも、と続ける。
「僕も、一目見たときから、この甕に惹かれるものがあったんだ。理由はいまでもよくわからない。呪いに引き寄せられたのかもしれないな」
「その興味のおかげか、すぐに甕の破損と原爆を結びつけることができた。そして、広島と長崎の爆心地の、史跡、郷土資料館、寺社を回るうちに、広島のS寺で以前保管されていたという情報を得た」
「郷土史に興味を持ったのもこの頃だな。歴史には、遺しても忘れてもいけない事実が潜んでいるとわかったからね」
余談ながら、私は聞いた。
「歴史研究家になろうとは思わなかったんですか?」
だって、歴史に比べて郷土史の評価は、低いと思わない?
「すぐに、証拠を出せと色めき立つ連中を相手にするほど、時間の無駄はないと思わないかね?」
教授はつまらなさそうに愚痴る。
なんだか笑えてしまった。
539:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:46:01ID:VsVHhltb0
検体 5/11
「情報を得て、すぐにでもS寺に行って話を聞きたかったが、残念ながら、その直後に妹が死んだ。甕は厳重に蔵の奥にしまわれて、見ることさえできなくなってしまったんだ」
肩をすくめる教授。
そ、そんな反応でいいの?妹さん、可哀相じゃない?(汗)
「それから十数年が経って、蔵を仕切っていた僕の父が死んだ。ところが、また残念ながら、僕には甕を取り出せない理由ができてしまったんだ」
「えっと…」
ちょっとややこしくなってきたので、時間をもらって計算してみた。
教授は、いま60代前半。戦後生まれだと言ったから、62、63歳ぐらい。
妹さんが亡くなったのは、教授が20歳前後だから、いまから42、43年前。
それから10数年経って教授のお父さんが亡くなったんだから、これは30年ぐらい前のことなのね。で、教授は30代半ば…ぐらい?
「その理由ってなんですか?」
と聞くと、教授は複雑な顔をして、言った。
「僕に息子ができた。つまり、代替わりしてしまったんだよ。甕の呪いは、今度は息子が被ることになる」
「えっ?!」
私は、いろんな意味で、驚いた。
教授…奥さん、いたんだ…。
私の失礼な感想を、気づいたんだろうけど無視して、教授は続けた。
「僕にも人並みな感情があるんだと、あのときは感心したよ。息子に害が及ばないように、すぐに、住職の寺に甕を預けて供養を頼んだ」
「それで、息子さんは、いま…?」
と聞くと、教授は、少し困ったような顔をして、頭を掻いた。
「健在だよ。離婚した妻が連れていったから、何年も顔を見てないけどね」
「………」
…やっぱり…、って言っちゃ、ダメだよね(汗)。
540:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:47:25ID:VsVHhltb0
検体 6/11
広島駅を降り立ち、タクシーでS寺に向かう。
運転手さんの話によると、S寺は原爆で完全に焼失し、いまあるのは近年に建て替えられた物らしい。
運転手さん自身は年嵩でもなかったけど、土地柄か、戦前から戦後にかけての情報には明るくて、
「あの寺は行者さまが立ち寄られた所だそうで、原爆が落ちる前までは、境内に清水が湧き出る井戸があったんですよ」
と案内してくれた。
教授が、
「【行者さま】というのは修験道の開祖の役小角(えんのおづぬ)のことだな。彼は竜神の異名も持っていて、水の神としても慕われている」
と教えてくれた。
S寺は小さな寺だった。
お手水と本堂と、それから、脇に「御霊水の井戸」と書かれた祠がある。
確かに井戸ぐらいの大きさだけど、扉は締め切られていて、中は見えない。
教授は、すぐ隣にある民家に向かった。こういうこじんまりしたお寺は、住職さんがお隣に住んでいる場合が少なくない。
私は本堂の前で待った。
すぐに教授と、Tシャツにスラックスという普段着の住職さんが出てきた(笑)。
堂内に通してもらえたので、教授の隣りで、かしこまって話に耳を傾けた。
541:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:49:01ID:VsVHhltb0
検体 7/11
教授が甕の写真を見せる。
「こちらについて伺いたいのですが、ご存知ですか?」
住職さんは頷きながら、
「この甕は、実物は見たことがありません。戦前までこの寺でご供養差し上げていた物らしいのですが、そのときの住職は原爆で亡くなりましたので」
と答えた。
思わぬところで被爆者の末路を聞いて、私は、浮かれた気分が吹き飛んだ。
教授は、
「お気の毒さまでした」
と悼んで、続ける。
「この甕は、いま、僕が管理して、あるお寺に預けています。幸いにして呪詛の効果は現れていませんが、この寺では、どのようにしてお祭りをしていたんでしょうか?」
その質問に、住職は、
「この甕は水を強く欲するので、絶えず御霊水を注いでお慰めしていたようです。その井戸も、原爆でつぶれてしまいましたが」
と答えた。
そっか…。祠で覆ってあったのは、すでに井戸の形を成してないからなのね…。
542:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:51:04ID:VsVHhltb0
検体 8/11
教授はさらに踏み込む。
「この寺にあるとき、甕は、なにか災いを起こしましたかな?」
住職は笑って首を振り…。
でも、すぐに思い返して、声を潜めた。
「災いと言っても、戦時中のことでしたので」
と注記して、説明する。
「この甕を管理していた先々代の住職は、先ほども言ったように、原爆で一家すべて亡くなりました。寺に縁のあった先代の住職が、その惨状を目にしたのは、投下から3日後のことだったと言います」
「先々代とそのご両親は焼け焦げ、修行中だった息子さんは、身重の奥様を引きずりながら、御霊水の井戸まで辿りついて息絶えていたようです」
「奥様は家の中にいらっしゃったのか、ガラスの破片で背中に大怪我をなされていました。先代の住職の呼びかけには一言、二言、応えられたそうですが、その後は、ただ、『水が欲しい』と言って、事切れました」
………。
私は…。
原爆って、ただの歴史だと思ってた。
遺物だと思ってた。
「『水が欲しい』ですか…」
教授は考え込んでいるようだった。
甕は餓死を誘うらしいけど、関係あるの…?
543:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:52:32ID:VsVHhltb0
検体 9/11
「ここからは、あまり話を広げないようにお願いします」
住職はさらに小声になった。
「私自身、この話をどこまで伝えていいものか迷っているのですが、身に納めておくのも心苦しいので」
と、本音を吐露し、教授と私に【悪夢】を伝授する。
「先代の住職が、焼け野にご遺体を並べて供養していたとき、米兵が寺に来て、安置してあったご遺体の中から奥様を連れて行ったそうです」
「…それはどういう意味ですかな?」
教授は眉をひそめる。
「よくはわからなかったそうですが、米兵たちは盛んに『サンプル』と言っていた、ということです」
と、住職の返事。
私も意味がわからなくて、教授の顔を見た。
教授は、少し怒っているのかもしれなかった。
「つまり、被爆者の検体として、奥方が選ばれたということですな」
初めて聞く怖い声だった。
「そう思っております。奥様は…いまもこの日本には帰ってきていないのかもしれません」
住職は抑揚のない声で答えた。
544:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:56:23ID:VsVHhltb0
検体 10/11
寺を出るときまで把握できていなかった私に、教授は、ゆっくり歩きながら説明してくれた。
「原爆は、なぜ投下されたと思う?」
「えっと…第二次大戦を終わらせるため…ではなかったのですか?」
答えてから、どこかの政治家が同じことを言って非難を浴びたことを思い出した。
「威嚇という説もある。むしろ、米国はそう主張してきた。だが、それだけじゃない」
教授は断言する。
「原爆の技術はドイツからアメリカに渡って来たが、開発計画はずっと秘密裏に行われてきた。マンハッタン計画…と言ってもわからないか」
笑われたけど、わからないものはわからない。首を横に振る。
ただ、
「威嚇目的なら、すごい兵器を保有していることは、むしろ公にするのでは?」
という私の意見は、的を射たようだ。
「そう。原爆の威力は、すでに日本でもSF的な知識で知れ渡っていたから、敵対国が持っていると知れば、たやすくパニックになっただろう」
教授は肯定して、
「でも、アメリカはその手段を取らなかった」
と続ける。
「原爆がどんな効果をもたらすのか。それを知るためには、どうしても実戦で使う必要があったからだ。広島の街と人民は、アメリカの興味本位の検体にされたんだよ」
私が教授の怒りの意味を本当に知るのは、この後、広島の街を回って、原爆の実態を知ってからだった。
けれど、筆舌に尽くしがたいので、それは割愛する。
545:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:58:27ID:VsVHhltb0
検体 11/11
「でも、教授…」
寺をはるかに後にしてから、私は思い出して、教授に伝えた。
「甕のこと…【呪い】とは、なんとなく関連付けられましたけど、このお寺に来る以前の軌跡は聞いてこなくてよかったんですか?」
暗い表情で考え込んでいた教授は、ぱっと顔を上げて、頭を掻いた。
「忘れてたよ」
そのまま踵を返して、住職の家を再訪問する。
やっぱり、私、ついてきてよかった…(汗)。
引用元:【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ5【友人・知人】
https://anchorage.5ch.net/test/read.cgi/occult/1219147569/535-545
検体 1/11
広島までの行程に備えて、車の整備をした。
今回は、なんだか、私がしっかりしないといけない気がする。
教授の、非業の死を遂げた身内に関わることなのだから。
…きっと、いつもみたいに平静な旅にはならないよね…?
出発の声がかかる前に、問題の甕を見せてもらいたくて、兄貴に頼んだ。
でも、
「駄目」
の一言。
未だに継続中の呪いが、どんなふうに跳ねるか、わからないからなんだって。
2週間ほど経って、鋭い寒さが少し和らいだ頃、教授から連絡があった。出発だ。
新幹線の車内に中国地方の駅名が流れ始めたとき。
私は、やっと、【運転手の自分】が今回の旅に必要なかったことに気づいた。
えー…。
教授、今度は私に何をやらせようと…?(汗)
536:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:41:32ID:VsVHhltb0
検体 2/11
電車内では教授といろいろな話をした。
いままでの、冒険じみた旅の話。
人間の生への執着と死への恐怖の強大さ。
死後も現世に留まる意識体(霊魂)が存在するのかどうか。
「妹さんが、もし、まだこの世を彷徨っているとしたら、教授は会いたいですか?」
と聞くと、
「ぜひ会いたいね。飢えて死んでいく気持ちを事細かに聞いてみたい」
と言われた。
やっぱり、教授の発想だ(汗)。
「そういうこと言ってると祟られますよ」
と忠言するけど、教授は楽しそうに、
「僕に降りかかるはずだった祟りは、すべて妹が受けてくれたからね。僕は長生きするよ」
と答える。
うちで身の上話をしていたときの神妙な様子は、完全に演技だったらしい…。
537:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:42:43ID:VsVHhltb0
検体 3/11
話の後半になって、問題の甕の出所について聞くことができた。
「あれは、元は、爆心地から1キロほど離れた寺院に祭られていたんだ」
教授の説明に、
「爆心地って原爆ドーム?」
と基本的なことから聞き直さなければならない私(汗)。
「そう」
教授は肯定する。
「ただ、原爆ドームに、直接、落下したわけじゃない。考えてごらん。太陽に匹敵するほどの高熱を発する爆弾が落ちたとしたら、建物の原型が残ると思うかい?」
「…」
そっか。
原爆の熱の威力って太陽並みだったんだ、と、改めて震撼する。
「実際の爆心地は、ドーム傍(そば)の相生橋で、地上に落ちる前に空中で爆発したらしいよ」
教授は補足した。
「その寺院で被爆した甕は、戦後の混乱期に盗難と売買を繰り返され、僕の家の蔵に納まった。いかにも古物だし、価値のあるものだと思われたんだろうね」
教授は甕の写真を見せてくれた。
黒ずんだ表面は気味悪く爛れて、【いわくつき】の雰囲気がありありと見て取れる。
「この溶けたような外見は、原爆で?」
と聞くと、
「たぶん」
との答え。
538:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:44:42ID:VsVHhltb0
検体 4/11
「僕の家の者は、誰も甕の出所を知らなかった。我が家には、古物商から説明された【呪い】の話が伝わっていただけだ」
「そんなものを、よく買う気になりましたね」
私は教授一家の【趣味】に呆れた。
教授は笑って言った。
「確かに自虐的な趣味だ」
でも、と続ける。
「僕も、一目見たときから、この甕に惹かれるものがあったんだ。理由はいまでもよくわからない。呪いに引き寄せられたのかもしれないな」
「その興味のおかげか、すぐに甕の破損と原爆を結びつけることができた。そして、広島と長崎の爆心地の、史跡、郷土資料館、寺社を回るうちに、広島のS寺で以前保管されていたという情報を得た」
「郷土史に興味を持ったのもこの頃だな。歴史には、遺しても忘れてもいけない事実が潜んでいるとわかったからね」
余談ながら、私は聞いた。
「歴史研究家になろうとは思わなかったんですか?」
だって、歴史に比べて郷土史の評価は、低いと思わない?
「すぐに、証拠を出せと色めき立つ連中を相手にするほど、時間の無駄はないと思わないかね?」
教授はつまらなさそうに愚痴る。
なんだか笑えてしまった。
539:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:46:01ID:VsVHhltb0
検体 5/11
「情報を得て、すぐにでもS寺に行って話を聞きたかったが、残念ながら、その直後に妹が死んだ。甕は厳重に蔵の奥にしまわれて、見ることさえできなくなってしまったんだ」
肩をすくめる教授。
そ、そんな反応でいいの?妹さん、可哀相じゃない?(汗)
「それから十数年が経って、蔵を仕切っていた僕の父が死んだ。ところが、また残念ながら、僕には甕を取り出せない理由ができてしまったんだ」
「えっと…」
ちょっとややこしくなってきたので、時間をもらって計算してみた。
教授は、いま60代前半。戦後生まれだと言ったから、62、63歳ぐらい。
妹さんが亡くなったのは、教授が20歳前後だから、いまから42、43年前。
それから10数年経って教授のお父さんが亡くなったんだから、これは30年ぐらい前のことなのね。で、教授は30代半ば…ぐらい?
「その理由ってなんですか?」
と聞くと、教授は複雑な顔をして、言った。
「僕に息子ができた。つまり、代替わりしてしまったんだよ。甕の呪いは、今度は息子が被ることになる」
「えっ?!」
私は、いろんな意味で、驚いた。
教授…奥さん、いたんだ…。
私の失礼な感想を、気づいたんだろうけど無視して、教授は続けた。
「僕にも人並みな感情があるんだと、あのときは感心したよ。息子に害が及ばないように、すぐに、住職の寺に甕を預けて供養を頼んだ」
「それで、息子さんは、いま…?」
と聞くと、教授は、少し困ったような顔をして、頭を掻いた。
「健在だよ。離婚した妻が連れていったから、何年も顔を見てないけどね」
「………」
…やっぱり…、って言っちゃ、ダメだよね(汗)。
540:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:47:25ID:VsVHhltb0
検体 6/11
広島駅を降り立ち、タクシーでS寺に向かう。
運転手さんの話によると、S寺は原爆で完全に焼失し、いまあるのは近年に建て替えられた物らしい。
運転手さん自身は年嵩でもなかったけど、土地柄か、戦前から戦後にかけての情報には明るくて、
「あの寺は行者さまが立ち寄られた所だそうで、原爆が落ちる前までは、境内に清水が湧き出る井戸があったんですよ」
と案内してくれた。
教授が、
「【行者さま】というのは修験道の開祖の役小角(えんのおづぬ)のことだな。彼は竜神の異名も持っていて、水の神としても慕われている」
と教えてくれた。
S寺は小さな寺だった。
お手水と本堂と、それから、脇に「御霊水の井戸」と書かれた祠がある。
確かに井戸ぐらいの大きさだけど、扉は締め切られていて、中は見えない。
教授は、すぐ隣にある民家に向かった。こういうこじんまりしたお寺は、住職さんがお隣に住んでいる場合が少なくない。
私は本堂の前で待った。
すぐに教授と、Tシャツにスラックスという普段着の住職さんが出てきた(笑)。
堂内に通してもらえたので、教授の隣りで、かしこまって話に耳を傾けた。
541:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:49:01ID:VsVHhltb0
検体 7/11
教授が甕の写真を見せる。
「こちらについて伺いたいのですが、ご存知ですか?」
住職さんは頷きながら、
「この甕は、実物は見たことがありません。戦前までこの寺でご供養差し上げていた物らしいのですが、そのときの住職は原爆で亡くなりましたので」
と答えた。
思わぬところで被爆者の末路を聞いて、私は、浮かれた気分が吹き飛んだ。
教授は、
「お気の毒さまでした」
と悼んで、続ける。
「この甕は、いま、僕が管理して、あるお寺に預けています。幸いにして呪詛の効果は現れていませんが、この寺では、どのようにしてお祭りをしていたんでしょうか?」
その質問に、住職は、
「この甕は水を強く欲するので、絶えず御霊水を注いでお慰めしていたようです。その井戸も、原爆でつぶれてしまいましたが」
と答えた。
そっか…。祠で覆ってあったのは、すでに井戸の形を成してないからなのね…。
542:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:51:04ID:VsVHhltb0
検体 8/11
教授はさらに踏み込む。
「この寺にあるとき、甕は、なにか災いを起こしましたかな?」
住職は笑って首を振り…。
でも、すぐに思い返して、声を潜めた。
「災いと言っても、戦時中のことでしたので」
と注記して、説明する。
「この甕を管理していた先々代の住職は、先ほども言ったように、原爆で一家すべて亡くなりました。寺に縁のあった先代の住職が、その惨状を目にしたのは、投下から3日後のことだったと言います」
「先々代とそのご両親は焼け焦げ、修行中だった息子さんは、身重の奥様を引きずりながら、御霊水の井戸まで辿りついて息絶えていたようです」
「奥様は家の中にいらっしゃったのか、ガラスの破片で背中に大怪我をなされていました。先代の住職の呼びかけには一言、二言、応えられたそうですが、その後は、ただ、『水が欲しい』と言って、事切れました」
………。
私は…。
原爆って、ただの歴史だと思ってた。
遺物だと思ってた。
「『水が欲しい』ですか…」
教授は考え込んでいるようだった。
甕は餓死を誘うらしいけど、関係あるの…?
543:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:52:32ID:VsVHhltb0
検体 9/11
「ここからは、あまり話を広げないようにお願いします」
住職はさらに小声になった。
「私自身、この話をどこまで伝えていいものか迷っているのですが、身に納めておくのも心苦しいので」
と、本音を吐露し、教授と私に【悪夢】を伝授する。
「先代の住職が、焼け野にご遺体を並べて供養していたとき、米兵が寺に来て、安置してあったご遺体の中から奥様を連れて行ったそうです」
「…それはどういう意味ですかな?」
教授は眉をひそめる。
「よくはわからなかったそうですが、米兵たちは盛んに『サンプル』と言っていた、ということです」
と、住職の返事。
私も意味がわからなくて、教授の顔を見た。
教授は、少し怒っているのかもしれなかった。
「つまり、被爆者の検体として、奥方が選ばれたということですな」
初めて聞く怖い声だった。
「そう思っております。奥様は…いまもこの日本には帰ってきていないのかもしれません」
住職は抑揚のない声で答えた。
544:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:56:23ID:VsVHhltb0
検体 10/11
寺を出るときまで把握できていなかった私に、教授は、ゆっくり歩きながら説明してくれた。
「原爆は、なぜ投下されたと思う?」
「えっと…第二次大戦を終わらせるため…ではなかったのですか?」
答えてから、どこかの政治家が同じことを言って非難を浴びたことを思い出した。
「威嚇という説もある。むしろ、米国はそう主張してきた。だが、それだけじゃない」
教授は断言する。
「原爆の技術はドイツからアメリカに渡って来たが、開発計画はずっと秘密裏に行われてきた。マンハッタン計画…と言ってもわからないか」
笑われたけど、わからないものはわからない。首を横に振る。
ただ、
「威嚇目的なら、すごい兵器を保有していることは、むしろ公にするのでは?」
という私の意見は、的を射たようだ。
「そう。原爆の威力は、すでに日本でもSF的な知識で知れ渡っていたから、敵対国が持っていると知れば、たやすくパニックになっただろう」
教授は肯定して、
「でも、アメリカはその手段を取らなかった」
と続ける。
「原爆がどんな効果をもたらすのか。それを知るためには、どうしても実戦で使う必要があったからだ。広島の街と人民は、アメリカの興味本位の検体にされたんだよ」
私が教授の怒りの意味を本当に知るのは、この後、広島の街を回って、原爆の実態を知ってからだった。
けれど、筆舌に尽くしがたいので、それは割愛する。
545:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/09/20(土)00:58:27ID:VsVHhltb0
検体 11/11
「でも、教授…」
寺をはるかに後にしてから、私は思い出して、教授に伝えた。
「甕のこと…【呪い】とは、なんとなく関連付けられましたけど、このお寺に来る以前の軌跡は聞いてこなくてよかったんですか?」
暗い表情で考え込んでいた教授は、ぱっと顔を上げて、頭を掻いた。
「忘れてたよ」
そのまま踵を返して、住職の家を再訪問する。
やっぱり、私、ついてきてよかった…(汗)。
引用元:【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ5【友人・知人】
https://anchorage.5ch.net/test/read.cgi/occult/1219147569/535-545
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