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胃の中の生き物
2007.11.09 (Fri) | Category : トピックス
1910年カナダ、胃の中のトカゲの謎
1910年に死亡したロヴィ・ハーマンという女性のケースはその後10年以上に渡り、医師たちの間に議論を呼んだ。
当時、彼女を診察した多くの内科医は皆困惑した。
彼女の症状は診察の度に激しく変化し、彼女がその短い波乱の生涯を終えるまで、 彼らはとうとう適切な処方を与えることは出来なかったのだ。
当時20歳のハーマンは謎の疾病に苦しんでいた。
彼女の身体はそのとどまる所をしらない食欲に反して、体重は40kg以下まで落ち込んでいた。
彼女は常に胃の痛みに苦しみ、吐血、失神を繰り返した。
そしてついには呼吸困難に陥るようになり、その皮膚には斑点が生じ、唇は紫色に変化したのだ。
彼女を診察した医師達は彼女のその謎の疾病を結核か腸チフス、あるいは心臓病、あるいはまたそれ以外の全く違う病気かもしれない、と診察の度に推測を広げた。
つまり、彼らはその症状が何なのか、全く掴めなかったのである。
そして1910年12月9日、彼女はその短い生涯を静かに終えた。
そして彼女の遺体が解剖されるや否や、発表された死因は医学会、そして北米に凄まじい衝撃を与えたのだ。
それは、文字通り、悪夢だったのである。
当時彼女の主治医だったアレックス・J・マッキントッシュ医師は彼女の解剖後の死因をこのように報告している。
「彼女の死因は胃の中にいたトカゲ(複数)の毒により、身体の全器官が損傷を受けていたことによる」、と。
新聞記者は問いただした。「おい、今彼は、トカゲって言ったか…??」
どよめく記者をよそに彼は落ち着き払って続けた。
「彼女の胃の中にトカゲがいた事に疑問の余地はない。事実、私は彼女の胃の中から取り出した数匹のトカゲのうち、最も大きかった2匹を研究室のビンに入れて保存している。」
そして彼は彼女の胃の中から複数の卵を発見した事を付け加え、更にいくつかの事実を発表した。
まずトカゲは長期に渡って彼女の胃の中で生き続けていた事、また死後、彼女の家族からの話で昔彼女がミラーズバーグ付近の泉で水をすくって飲んだ事、そして彼の見解ではおそらくその時に彼女は偶然にも水中に紛れた小さなトカゲの卵を飲み込んでしまったのだろうと話した。
ハーマンが死ぬ数日前、彼は彼女に強い薬を与えた。
彼はハーマンがサナダムシの寄生に苦しんでいるのではないかと考えたのである。
そして薬を飲んだ彼女は確かに、「のど元まで何かが這い上がって来る感覚」を彼に語ったという。
「彼女の胃から発見されたトカゲはそれぞれ長さ7.5cm程で、うち一匹は他のトカゲよりも大分大きく成長していた。また他に数匹の小さいトカゲがいたが、うち大きいもの2匹を保存した。それらは頭部、口、尻尾、などを備えた完全な姿である。」
と話して医師は発表を終えた。
この不気味な事件は地元メディアの報道合戦の格好のネタになった。
各新聞社はこぞって事件を大きな文字と派手な見出しで飾り、この特大スクープを我先にと報じたのである。
「2匹の巨大トカゲが原因で死亡」「13年間、少女の胃の中に生きたトカゲに毒されて死亡」、といった具合である。
ロヴァ・J・ハーマン、家族からはロヴィーと呼ばれていた彼女は幼い頃から病気に苦しんでいた。
彼女は最初、結核と診断され、シカゴの療養所で治療を受けていたが、一向にその症状に回復が見られない為、その後クリーヴランドの病院に彼女の母親エレンと共に異動した。
その時、彼女の病名は心臓病だったのだ。
そしてそこで彼女はマッキントッシュ医師と知り合う事になる。
彼女を診察したマッキントッシュ医師は当初から彼女を寄生虫病の一種だと診断した。
彼女が異常なまでの食欲を持っていたからである。
しかし彼はある時、彼女の胃の中にいるのが、トカゲであることを発見するのである。
その後、彼はしばらく彼女に食事を与える事を差し控えたという。
彼はトカゲ達を飢えさせようとしたのだ。
そして彼は食事の代わりに彼女に薬を与えた。
医師の話ではその時、ハーマンの症状は良くなっているように思えたという。
しかし、木曜の深夜、彼女は母親の腕に抱かれて静かに息を引き取った。
それは彼女は気分が良くなってきたと話していた直後の出来事だったのだ。
その後、彼女の遺体は地元アクロンの彼女の兄の家へと送られた。
そして彼女の遺体はそこで医師や検死官17人が待機する中、マッキントッシュ医師によって検死解剖を受けたのである。
そして解剖を終えたマッキントッシュ医師は静かにその報告書を書き上げた。
「検死解剖の結果は生前の検査結果が正しかった事を証明した。彼女の胃はトカゲによってほとんど食い尽くされ、胃の中からはストローほどの小さなトカゲ達が発見された」
しかし彼がその検死結果を外で待機する立会人に報告するや否や、立会人からはそんな事がある訳がない、と一斉に抗議を初めたのである。
中でもデヴィッドソン氏は当初から懐疑的だった。
「胃の中には何もなかった。 内臓器官は鬱血した状態で、彼女の心臓は通常の2倍程に膨れ上がっていた。
それこそが彼女の死因だったと思うね。もしもトカゲが胃の中にいたらまず窒息するし、万が一生きていられたとしても胃酸から逃れることは出来ないだろう。我々が唯一見る事が出来たのは胃が真っ赤に充血していた事だ。 そしてそれは心臓のせいだと思う。」
デヴィッドソン氏は取材に対し声を荒げた。
そして更に検死に参加した検死官のマックス・A・ボージャー氏もデヴィッドソン氏に同調した。
「トカゲがそんなに長いこと胃の中で生きられる訳がないだろう。 そりゃサナダムシは初めから人の体内で生きる生き物だから当然だけど、トカゲがそんな事出来るわけがないだろう。」と語った。
またクリーヴランドの衛生局員クライド・E・フォード氏はマッキントッシュ医師の書いた死亡診断書を受理する事を断固として拒否した。
「胃の中にトカゲがいて、その毒で死んだなんてあり得るわけがないだろう。議論の余地などない。そんなものは絶対に受け取れない。」と語った。
しかし、彼女の母親エレンはマッキントッシュ医師を信頼し、そして彼の死亡診断書を認めていたのである。
「彼は、ロヴィーの回復に本気で臨んでくれたわ。私は検視官や他の誰が反対しようとも、彼のことを信頼してるわ。」と語った。
たとえ医学がそれを否定しようとも、家族は医師の報告を固く信じていたのである。
マッキントッシュ医師の報告書はその後も多数の反対に合い、1910年12月13日、彼はそれ以上の議論を諦め、一切の報告を撤回した。
そして新聞社はその紙面の隅に小さく「トカゲ物語はでっち上げ」であると報じた。
今日、このトカゲの物語 - そしてこの種の、生物が人体に侵入し食い殺すといった物語 - は単なる都市伝説の一種であると見なされている。
しかし、1910年、確かに謎の死を遂げたロヴィー・ハーマンの死亡調査書は現在でもコロンブスのオハイオ歴史協会に保存され、閲覧する事ができる。
しかし、その死因は彼女の複雑な病気、そして死後の一連の出来事など全て無関係に、さらりと書かれたものなのである。
1910年に死亡したロヴィ・ハーマンという女性のケースはその後10年以上に渡り、医師たちの間に議論を呼んだ。
当時、彼女を診察した多くの内科医は皆困惑した。
彼女の症状は診察の度に激しく変化し、彼女がその短い波乱の生涯を終えるまで、 彼らはとうとう適切な処方を与えることは出来なかったのだ。
当時20歳のハーマンは謎の疾病に苦しんでいた。
彼女の身体はそのとどまる所をしらない食欲に反して、体重は40kg以下まで落ち込んでいた。
彼女は常に胃の痛みに苦しみ、吐血、失神を繰り返した。
そしてついには呼吸困難に陥るようになり、その皮膚には斑点が生じ、唇は紫色に変化したのだ。
彼女を診察した医師達は彼女のその謎の疾病を結核か腸チフス、あるいは心臓病、あるいはまたそれ以外の全く違う病気かもしれない、と診察の度に推測を広げた。
つまり、彼らはその症状が何なのか、全く掴めなかったのである。
そして1910年12月9日、彼女はその短い生涯を静かに終えた。
そして彼女の遺体が解剖されるや否や、発表された死因は医学会、そして北米に凄まじい衝撃を与えたのだ。
それは、文字通り、悪夢だったのである。
当時彼女の主治医だったアレックス・J・マッキントッシュ医師は彼女の解剖後の死因をこのように報告している。
「彼女の死因は胃の中にいたトカゲ(複数)の毒により、身体の全器官が損傷を受けていたことによる」、と。
新聞記者は問いただした。「おい、今彼は、トカゲって言ったか…??」
どよめく記者をよそに彼は落ち着き払って続けた。
「彼女の胃の中にトカゲがいた事に疑問の余地はない。事実、私は彼女の胃の中から取り出した数匹のトカゲのうち、最も大きかった2匹を研究室のビンに入れて保存している。」
そして彼は彼女の胃の中から複数の卵を発見した事を付け加え、更にいくつかの事実を発表した。
まずトカゲは長期に渡って彼女の胃の中で生き続けていた事、また死後、彼女の家族からの話で昔彼女がミラーズバーグ付近の泉で水をすくって飲んだ事、そして彼の見解ではおそらくその時に彼女は偶然にも水中に紛れた小さなトカゲの卵を飲み込んでしまったのだろうと話した。
ハーマンが死ぬ数日前、彼は彼女に強い薬を与えた。
彼はハーマンがサナダムシの寄生に苦しんでいるのではないかと考えたのである。
そして薬を飲んだ彼女は確かに、「のど元まで何かが這い上がって来る感覚」を彼に語ったという。
「彼女の胃から発見されたトカゲはそれぞれ長さ7.5cm程で、うち一匹は他のトカゲよりも大分大きく成長していた。また他に数匹の小さいトカゲがいたが、うち大きいもの2匹を保存した。それらは頭部、口、尻尾、などを備えた完全な姿である。」
と話して医師は発表を終えた。
この不気味な事件は地元メディアの報道合戦の格好のネタになった。
各新聞社はこぞって事件を大きな文字と派手な見出しで飾り、この特大スクープを我先にと報じたのである。
「2匹の巨大トカゲが原因で死亡」「13年間、少女の胃の中に生きたトカゲに毒されて死亡」、といった具合である。
ロヴァ・J・ハーマン、家族からはロヴィーと呼ばれていた彼女は幼い頃から病気に苦しんでいた。
彼女は最初、結核と診断され、シカゴの療養所で治療を受けていたが、一向にその症状に回復が見られない為、その後クリーヴランドの病院に彼女の母親エレンと共に異動した。
その時、彼女の病名は心臓病だったのだ。
そしてそこで彼女はマッキントッシュ医師と知り合う事になる。
彼女を診察したマッキントッシュ医師は当初から彼女を寄生虫病の一種だと診断した。
彼女が異常なまでの食欲を持っていたからである。
しかし彼はある時、彼女の胃の中にいるのが、トカゲであることを発見するのである。
その後、彼はしばらく彼女に食事を与える事を差し控えたという。
彼はトカゲ達を飢えさせようとしたのだ。
そして彼は食事の代わりに彼女に薬を与えた。
医師の話ではその時、ハーマンの症状は良くなっているように思えたという。
しかし、木曜の深夜、彼女は母親の腕に抱かれて静かに息を引き取った。
それは彼女は気分が良くなってきたと話していた直後の出来事だったのだ。
その後、彼女の遺体は地元アクロンの彼女の兄の家へと送られた。
そして彼女の遺体はそこで医師や検死官17人が待機する中、マッキントッシュ医師によって検死解剖を受けたのである。
そして解剖を終えたマッキントッシュ医師は静かにその報告書を書き上げた。
「検死解剖の結果は生前の検査結果が正しかった事を証明した。彼女の胃はトカゲによってほとんど食い尽くされ、胃の中からはストローほどの小さなトカゲ達が発見された」
しかし彼がその検死結果を外で待機する立会人に報告するや否や、立会人からはそんな事がある訳がない、と一斉に抗議を初めたのである。
中でもデヴィッドソン氏は当初から懐疑的だった。
「胃の中には何もなかった。 内臓器官は鬱血した状態で、彼女の心臓は通常の2倍程に膨れ上がっていた。
それこそが彼女の死因だったと思うね。もしもトカゲが胃の中にいたらまず窒息するし、万が一生きていられたとしても胃酸から逃れることは出来ないだろう。我々が唯一見る事が出来たのは胃が真っ赤に充血していた事だ。 そしてそれは心臓のせいだと思う。」
デヴィッドソン氏は取材に対し声を荒げた。
そして更に検死に参加した検死官のマックス・A・ボージャー氏もデヴィッドソン氏に同調した。
「トカゲがそんなに長いこと胃の中で生きられる訳がないだろう。 そりゃサナダムシは初めから人の体内で生きる生き物だから当然だけど、トカゲがそんな事出来るわけがないだろう。」と語った。
またクリーヴランドの衛生局員クライド・E・フォード氏はマッキントッシュ医師の書いた死亡診断書を受理する事を断固として拒否した。
「胃の中にトカゲがいて、その毒で死んだなんてあり得るわけがないだろう。議論の余地などない。そんなものは絶対に受け取れない。」と語った。
しかし、彼女の母親エレンはマッキントッシュ医師を信頼し、そして彼の死亡診断書を認めていたのである。
「彼は、ロヴィーの回復に本気で臨んでくれたわ。私は検視官や他の誰が反対しようとも、彼のことを信頼してるわ。」と語った。
たとえ医学がそれを否定しようとも、家族は医師の報告を固く信じていたのである。
マッキントッシュ医師の報告書はその後も多数の反対に合い、1910年12月13日、彼はそれ以上の議論を諦め、一切の報告を撤回した。
そして新聞社はその紙面の隅に小さく「トカゲ物語はでっち上げ」であると報じた。
今日、このトカゲの物語 - そしてこの種の、生物が人体に侵入し食い殺すといった物語 - は単なる都市伝説の一種であると見なされている。
しかし、1910年、確かに謎の死を遂げたロヴィー・ハーマンの死亡調査書は現在でもコロンブスのオハイオ歴史協会に保存され、閲覧する事ができる。
しかし、その死因は彼女の複雑な病気、そして死後の一連の出来事など全て無関係に、さらりと書かれたものなのである。
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