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―奇形― <師匠シリーズ>
2010.06.01 (Tue) | Category : 創作作品
586 名前:奇形 1/6 投稿日:03/05/06 15:52
俺にはオカルト道の師匠がいるのだが、やはり彼なりの霊の捉え方があってしばしば「霊とはこういうもの」と講釈をしてくれた。
師匠曰く、
ほとんどの霊体は自分が死んでいることをよくわかっていない。
事故現場などにとどまって未だに助けを求めているやつもいれば、生前の生活行動を愚直に繰り返そうとするやつもいる。
そういうやつは普通の人間が怖がるものはやっぱり怖いのさ。
ヤクザも怖ければ獰猛な犬も怖い。キチガイも。
怒鳴ってやるだけで、可哀相なくらいびびるやつもいる。
問題は恫喝にもびびらないやつ。
自分が死んでいることを理解しているやつには関わらない方がいい。
といったことなどをよく言っていたが、これは納得できる話だしよく聞く話だ。
しかし、ある時教えてくれたことは師匠以外の人から聞いたことがなく、未だにそれに類する話も聞いたことがない。
俺の無知のせいかもしれないが、このスレの人たちはどう思うだろうか。
大学二年の夏ごろ、俺は変わったものを立て続けに見た。
最初ははじめて行ったパチンコ屋で、パチンココーナーをウロウロしているとある台に座るオッサンの異様に思わず立ち止まった。
下唇が異常なほど腫れあがって垂れ下がっている。
ほとんど胸に付くくらい、ボテっと。
そういう病気の人もいるんだなあと思い、立ち去ったがその次の日のこと。
街に出るのにバスに乗り、乗車口正面の席に座ってぼうっとしていると前の席に座る人の手の指が多いことに気付いた。
肘掛に乗せている手の指がどう数えても6本あるのだ。
左端に親指があるのはいいのだが反対の端っこに大きな指がもう一本生えている。
多指症というやつだろうか。
その人は俺よりさきに降りていったが、他の誰もジロジロみている気配はなかった。
気付かないのか、と思ったがあとで自分の思慮のなさに思い至った。
そしてまた次の日、今度は小人を見た。
これもパチンコ屋だが、子供がチョロチョロしてるなあと思ったら顔を見ると中年だった。
男か女かよくわからない独特の顔立ちで、甲高い声で「出ないぞ」みたいなことを言っていた。
足もまがってるせいか、かなり小さい。背の低い俺の胸までもないくらい。
こんどはあまりジロジロ見なかったが、奇形を見るのが立て続いたのでそういうこともあるんだなあと不思議な気持ちになった。
このことを師匠に話すと、喜ぶと思いきや難しい顔をした。
師匠は俺を怖がらせるのが好きなので
「祟られてるぞ」
とか無責任なことを言いそうなものだったが。
暫く考えて師匠は両手を変な形に合わせてから口を開いた。
「一度見ると、しばらくはまた他人を注意して見るようになる。そういうこともあるさ。蓋然性の問題だね。ただ、さっきの話でひとつおかしいところがある。 」
「乗車口正面の席は右手側に窓があるね」
何を言い出すのかと思ったが頷いた。
「当然その前の席も同じだ。さて、君が見た肘掛に乗せた手は右手でしょうか、左手でしょうか」
意味がわからなかったので、首を振った。
「窓際に肘掛があるバスもあるけど、君によく見え、また他の人が気づかないのを不思議に思うという状況からしてその肘掛は通路側だ。ということは親指が左側にあってはよくないね」
あっ、と思った。
「左手が乗ってなきゃいけないのに、乗っていたのはまるで右手だね。
6本あったことだけじゃなく、そこにも気付くはずだ。聞いただけの僕にもあった違和感が、ジロジロ見ていた君にないのはおかしい」
これから恐ろしいことを聞くような気がして、冷や汗が流れた。
「他の2つの話では、女なのか男なのか容姿に触れた部分があったけどバスの話では無い。席を立ったのだから、見ているはずなのに。見えているものの記憶がはっきりしない。
君はあやふやな部分を無意識に隠し、それをただの奇形だと思おうとしている。もう一度聞くがそれをジロジロ見ていたのは君だけなんだね?」
師匠は組んだ手を掲げた。
「いいかい。利き腕を出して。君は右だね。掌を下にして。その手の上に左の掌を下にしてかぶせて。親指以外が重なるように。そうそう。左の中指が右の薬指に重なるくらいの感じ。
左が気持ち下目かな。残りの指も長さが合わなくても重なるように。すると指は6本になるね」
これはやってみてほしい。
「親指が2本になり、左右対象になったわけだ。どんな感じ?」
不思議な感覚だ。落ち着くというか。安心するというか。
普通に両手を合わせるよりも一体感がある。
そのまま上下左右に動かすと特に感じる。
「これは人間が潜在意識のなかで望んでいる掌の形だよ。左右対象で、両脇の親指が均等な力で物を掴む。
僕はこんな『親指が二本ある幽霊』を何度か見たことがある」
「あれは俺だけに見えていた霊だったと?」
「多分ね。 たまにいるんだよ。生前のそのままの姿でウロつく霊も いれば、より落ちつくように、不安定な自分を保とうとするように、両手とも利き腕になっていたり、左右対象の6本指になっていたり・・・本人も無意識の内に変形しているヤツが。」
師匠はそう言って擬似6本指で俺にアイアンクローを掛けてきた。
不思議な話だった。
そんな話は寡聞にして聞いたことがない。
両手とも利き腕だとか・・・・
怪談本の類はかなり読んだけどそういうことに触れている本にはお目にかかったことが無い。
師匠のはったりなのか、それとも俺の知らない世界の道理なのか。
いまは知りようもない。
俺にはオカルト道の師匠がいるのだが、やはり彼なりの霊の捉え方があってしばしば「霊とはこういうもの」と講釈をしてくれた。
師匠曰く、
ほとんどの霊体は自分が死んでいることをよくわかっていない。
事故現場などにとどまって未だに助けを求めているやつもいれば、生前の生活行動を愚直に繰り返そうとするやつもいる。
そういうやつは普通の人間が怖がるものはやっぱり怖いのさ。
ヤクザも怖ければ獰猛な犬も怖い。キチガイも。
怒鳴ってやるだけで、可哀相なくらいびびるやつもいる。
問題は恫喝にもびびらないやつ。
自分が死んでいることを理解しているやつには関わらない方がいい。
といったことなどをよく言っていたが、これは納得できる話だしよく聞く話だ。
しかし、ある時教えてくれたことは師匠以外の人から聞いたことがなく、未だにそれに類する話も聞いたことがない。
俺の無知のせいかもしれないが、このスレの人たちはどう思うだろうか。
大学二年の夏ごろ、俺は変わったものを立て続けに見た。
最初ははじめて行ったパチンコ屋で、パチンココーナーをウロウロしているとある台に座るオッサンの異様に思わず立ち止まった。
下唇が異常なほど腫れあがって垂れ下がっている。
ほとんど胸に付くくらい、ボテっと。
そういう病気の人もいるんだなあと思い、立ち去ったがその次の日のこと。
街に出るのにバスに乗り、乗車口正面の席に座ってぼうっとしていると前の席に座る人の手の指が多いことに気付いた。
肘掛に乗せている手の指がどう数えても6本あるのだ。
左端に親指があるのはいいのだが反対の端っこに大きな指がもう一本生えている。
多指症というやつだろうか。
その人は俺よりさきに降りていったが、他の誰もジロジロみている気配はなかった。
気付かないのか、と思ったがあとで自分の思慮のなさに思い至った。
そしてまた次の日、今度は小人を見た。
これもパチンコ屋だが、子供がチョロチョロしてるなあと思ったら顔を見ると中年だった。
男か女かよくわからない独特の顔立ちで、甲高い声で「出ないぞ」みたいなことを言っていた。
足もまがってるせいか、かなり小さい。背の低い俺の胸までもないくらい。
こんどはあまりジロジロ見なかったが、奇形を見るのが立て続いたのでそういうこともあるんだなあと不思議な気持ちになった。
このことを師匠に話すと、喜ぶと思いきや難しい顔をした。
師匠は俺を怖がらせるのが好きなので
「祟られてるぞ」
とか無責任なことを言いそうなものだったが。
暫く考えて師匠は両手を変な形に合わせてから口を開いた。
「一度見ると、しばらくはまた他人を注意して見るようになる。そういうこともあるさ。蓋然性の問題だね。ただ、さっきの話でひとつおかしいところがある。 」
「乗車口正面の席は右手側に窓があるね」
何を言い出すのかと思ったが頷いた。
「当然その前の席も同じだ。さて、君が見た肘掛に乗せた手は右手でしょうか、左手でしょうか」
意味がわからなかったので、首を振った。
「窓際に肘掛があるバスもあるけど、君によく見え、また他の人が気づかないのを不思議に思うという状況からしてその肘掛は通路側だ。ということは親指が左側にあってはよくないね」
あっ、と思った。
「左手が乗ってなきゃいけないのに、乗っていたのはまるで右手だね。
6本あったことだけじゃなく、そこにも気付くはずだ。聞いただけの僕にもあった違和感が、ジロジロ見ていた君にないのはおかしい」
これから恐ろしいことを聞くような気がして、冷や汗が流れた。
「他の2つの話では、女なのか男なのか容姿に触れた部分があったけどバスの話では無い。席を立ったのだから、見ているはずなのに。見えているものの記憶がはっきりしない。
君はあやふやな部分を無意識に隠し、それをただの奇形だと思おうとしている。もう一度聞くがそれをジロジロ見ていたのは君だけなんだね?」
師匠は組んだ手を掲げた。
「いいかい。利き腕を出して。君は右だね。掌を下にして。その手の上に左の掌を下にしてかぶせて。親指以外が重なるように。そうそう。左の中指が右の薬指に重なるくらいの感じ。
左が気持ち下目かな。残りの指も長さが合わなくても重なるように。すると指は6本になるね」
これはやってみてほしい。
「親指が2本になり、左右対象になったわけだ。どんな感じ?」
不思議な感覚だ。落ち着くというか。安心するというか。
普通に両手を合わせるよりも一体感がある。
そのまま上下左右に動かすと特に感じる。
「これは人間が潜在意識のなかで望んでいる掌の形だよ。左右対象で、両脇の親指が均等な力で物を掴む。
僕はこんな『親指が二本ある幽霊』を何度か見たことがある」
「あれは俺だけに見えていた霊だったと?」
「多分ね。 たまにいるんだよ。生前のそのままの姿でウロつく霊も いれば、より落ちつくように、不安定な自分を保とうとするように、両手とも利き腕になっていたり、左右対象の6本指になっていたり・・・本人も無意識の内に変形しているヤツが。」
師匠はそう言って擬似6本指で俺にアイアンクローを掛けてきた。
不思議な話だった。
そんな話は寡聞にして聞いたことがない。
両手とも利き腕だとか・・・・
怪談本の類はかなり読んだけどそういうことに触れている本にはお目にかかったことが無い。
師匠のはったりなのか、それとも俺の知らない世界の道理なのか。
いまは知りようもない。
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―コジョウイケトンネル― <師匠シリーズ>
2010.05.21 (Fri) | Category : 創作作品
631 名前:コジョウイケトンネル 投稿日:03/04/30 20:52
師匠には見えて、僕には見えないことがしばしばあった。
夏前ごろ、オカルト道の師匠に連れられてコジョウイケトンネルに深夜ドライブを敢行した。
コジョウイケトンネルは隣のK市にある有名スポットで、近辺で5指に入る名所だ。
K市にはなぜか異様に心霊スポットが多い。
道々師匠が見所を説明してくれた。
「コジョウイケトンネルはマジで出るぞ。手前の電話ボックスもヤバイがトンネル内では入りこんでくるからな」
入りこんでくるという噂は聞いたことがあった。
「特に3人乗りが危ない。一つだけ座席をあけていると、そこに乗ってくる」
僕は猛烈に嫌な予感がした。
師匠の運転席の隣にはぬいぐるみが座っていた。
僕は後部座席で一人観念した。
「乗せる気ですね」
トンネルが見えてきた。
手前の電話ボックスとやらにはなにも見えなかったが、トンネル内に入るとさすがに空気が違う。
思ったより暗くて僕はキョロキョロ周囲を見まわした。
少し進んだだけで、これは出る、と確信する。
耳鳴りがするのだ。
僕は右側に座ろうか左側に座ろうか迷って、真ん中あたりでもぞもぞしていた。
右側の対抗車線からくるか、左の壁側からくるのか。
ドキドキしていると、いきなり師匠が叫んだ。
「ぶっ殺すぞコラァッァ!!!」
僕が言われたのかと縮みあがった。
「頭下げろ、触られるな」
耳鳴りがすごい。しかし何も見えない。
慌てて頭を下げるが、見えない手がすり抜けたかと思うと心臓に悪い。
「逃げるなァ!! 逃げたらもう一回殺す!」
師匠が啖呵を切るのはなんどか見たが、これほど壮絶なのは初めてだった。
「おい、逃がすな、はやく写真とれ」
心霊写真用に僕がカメラを預かっていたのだ。
しかし・・・
「どっちっスか」
「はやく、右の窓際」
「見えませんッ」
「タクシーの帽子! 見えるだろ。 逃げるなコラァ! 殺すぞ」
「見えません!」
ちっ、と師匠は舌打ちして前を向き直った。
ブレーキ掛ける気だ・・・
俺は真っ青になって、めったやたらにシャッターを切った。
トンネルを出た時には生きた心地がしなかった。
後日現像された写真を見せてもらうとそこには窓と、そのむこうのトンネル内壁のランプが写っていた。
師匠は不機嫌そうに言った。
「俺から見て右の窓だった」
よく見ると窓にうつるカメラを構えた僕の肩の後ろに、うっすらとタクシー
帽を被った初老の男の怯えた顔が写っていた。
師匠には見えて、僕には見えないことがしばしばあった。
夏前ごろ、オカルト道の師匠に連れられてコジョウイケトンネルに深夜ドライブを敢行した。
コジョウイケトンネルは隣のK市にある有名スポットで、近辺で5指に入る名所だ。
K市にはなぜか異様に心霊スポットが多い。
道々師匠が見所を説明してくれた。
「コジョウイケトンネルはマジで出るぞ。手前の電話ボックスもヤバイがトンネル内では入りこんでくるからな」
入りこんでくるという噂は聞いたことがあった。
「特に3人乗りが危ない。一つだけ座席をあけていると、そこに乗ってくる」
僕は猛烈に嫌な予感がした。
師匠の運転席の隣にはぬいぐるみが座っていた。
僕は後部座席で一人観念した。
「乗せる気ですね」
トンネルが見えてきた。
手前の電話ボックスとやらにはなにも見えなかったが、トンネル内に入るとさすがに空気が違う。
思ったより暗くて僕はキョロキョロ周囲を見まわした。
少し進んだだけで、これは出る、と確信する。
耳鳴りがするのだ。
僕は右側に座ろうか左側に座ろうか迷って、真ん中あたりでもぞもぞしていた。
右側の対抗車線からくるか、左の壁側からくるのか。
ドキドキしていると、いきなり師匠が叫んだ。
「ぶっ殺すぞコラァッァ!!!」
僕が言われたのかと縮みあがった。
「頭下げろ、触られるな」
耳鳴りがすごい。しかし何も見えない。
慌てて頭を下げるが、見えない手がすり抜けたかと思うと心臓に悪い。
「逃げるなァ!! 逃げたらもう一回殺す!」
師匠が啖呵を切るのはなんどか見たが、これほど壮絶なのは初めてだった。
「おい、逃がすな、はやく写真とれ」
心霊写真用に僕がカメラを預かっていたのだ。
しかし・・・
「どっちっスか」
「はやく、右の窓際」
「見えませんッ」
「タクシーの帽子! 見えるだろ。 逃げるなコラァ! 殺すぞ」
「見えません!」
ちっ、と師匠は舌打ちして前を向き直った。
ブレーキ掛ける気だ・・・
俺は真っ青になって、めったやたらにシャッターを切った。
トンネルを出た時には生きた心地がしなかった。
後日現像された写真を見せてもらうとそこには窓と、そのむこうのトンネル内壁のランプが写っていた。
師匠は不機嫌そうに言った。
「俺から見て右の窓だった」
よく見ると窓にうつるカメラを構えた僕の肩の後ろに、うっすらとタクシー
帽を被った初老の男の怯えた顔が写っていた。
―東山ホテル― <師匠シリーズ>
2010.05.20 (Thu) | Category : 創作作品
598 名前:東山ホテル 1/6 投稿日:03/04/30 12:21
強烈な体験がある。
夏だからーという安直な理由でサークル仲間とオカルトスポットに行くことになった。
東山峠にある東山ホテルという廃屋だ。
俺はネットで情報を集めたが、とにかく出るということなのでここにきめた。
とにかく不特定多数の証言から
「ボイラー室に焼け跡があり、そこがヤバイ」
などの情報を得たが特に
「3階で人の声を聞いた」
「何も見つからないので帰ろうとすると3階の窓に人影が見えた」
と、3階に不気味な話が集中しているのが気に入った。
雰囲気を出すために俺の家でこっくりさんをやって楽しんだあと12時くらいに現地へ向った。
男4女4の大所帯だったので、結構みんな余裕だったが東山ホテルの不気味な大きい影が見えてくると空気が変わった。
隣接する墓場から裏口に侵入できると聞いていたので、動きやすい服を来てこいとみんなに言っておいたが、肝心の墓場がない。
右側にそれらしいスペースがあるが広大な空き地になっている。
「墓なんてないぞ」
と言われたが、懐中電灯をかざして空き地の中に入ってみると雛壇のようなものがあり、変な形の塔が立っていた。
「おい、こっち何か書いてある」
言われて記念碑のみたいなものを照らして見ると
「殉職者慰霊塔」
ヒィィー
昭和3×年 誰某 警部補
みたいなことが何十と列挙されていた。
もうその佇まいといい、横の廃屋といい、女の子の半分に泣きが入った。
男まで
「やばいっすよここ」
と真剣な顔してい出だす始末。
俺もびびっていたが帰ってはサブすぎるので、なんとかなだめすかして奥にある沢を越えホテルの裏口に侵入した。
敷地から、1ヵ所開いていた窓を乗り越えて中に入ると部屋は電話機やら空き缶やら様々なゴミが散乱していた。
風呂場やトイレなど、汚れてはいたが使っていたそのままの感じだ。
部屋から廊下にでると剥がれた壁や捲くれあがった絨毯でいかにもな廃屋に仕上がっている。
懐中電灯が2個しかないのでなるべく離れない様にしながら各個室やトイレなどの写真をとりまくった。
特に台所は用具がまるまる残っていて、帳簿とかもあった。
噂だがここはオーナーが気が狂って潰れたという。
1階を探索して少し気が大きくなったので2階へ続く階段を見つけて、のぼった。
2階のフロアについて、噂の3階へそのまま行こうかと話していた時だ。
急に静寂のなかに電話のベルが鳴り響いた。
3階の方からだ。
女の子が悲鳴をあげてしまった。
連鎖するように動揺が広がって何人か下へ駆け降りた。
「落ちつけ。落ちつけって」
最悪だ。パニックはよけいな事故を起こす。
俺は上がろうか降りようか逡巡したが、ジリリリリリという気味の悪い音は心臓に悪い。
「走るな。ゆっくり降りろよ」
と保護者の気分で言ったが、懐中電灯を持っている二人はすでに駆け降りてしまっている。
暗闇がすうっと下りてきて、ぞっとしたので俺も慌てて走った。
広くなっている1階のロビーあたりで皆は固まっていた。
俺が着いたときに、ふっ、と電話は止った。
「もう帰る」
と泣いてる子がいて、気まずかった。
男たちも青い顔をしている。
その時一番年長の先輩が口を開いた。
俺のオカルト道の師匠だ。
「ゴメンゴメン。ほんとにゴメン」
そういいながらポケットから携帯電話を取り出した。
「こんなに驚くとは思わなかったから、ゴメンね」
曰く、驚かそうとして昼間に携帯を一台3階に仕込んでおいたらしい。
それで頃合をみはからってこっそりそっちの携帯に電話したと。
アフォか! やりすぎだっつーの。
もうしらけてしまったので、そこで撤退になった。
帰りしな師匠が言う。
「あそこ洒落にならないね」
洒落にならんのはアンタだと言いそうになったが師匠は続けた。
「僕たちが慰霊塔見てる時、ホテルの窓に人がいたでしょ」
見てない。あの時ホテルのほうを見るなんて考えもしない。
「夏だからDQNかと思ったけど、中に入ったら明らかに違った。10人じゃきかないくらい居た。上の方の階」
「居たって・・・」
「ネタのためにケータイもう一個買うほどの金あると思う?」
そこで俺アワアワ状態。
「あれはホテルの電話。音聞いたでしょ。じりりりりり」
たしかに。
みんなを送って行ったあと、師匠がとんでもないことを言う。
「じゃ、戻ろうかホテル」
俺は勘弁してくれと泣きつき、解放された。
しかし師匠は結局一人でいったみたいだった。
後日どうなったか聞いてみると、ウソか本当かわからない表情で
「また電話が掛かってきてね。出ても受話器からジリリリリリリ。根性なしが!!って一喝したらホテル中のが鳴り出した。 ヤバイと思って逃げた」
強烈な体験がある。
夏だからーという安直な理由でサークル仲間とオカルトスポットに行くことになった。
東山峠にある東山ホテルという廃屋だ。
俺はネットで情報を集めたが、とにかく出るということなのでここにきめた。
とにかく不特定多数の証言から
「ボイラー室に焼け跡があり、そこがヤバイ」
などの情報を得たが特に
「3階で人の声を聞いた」
「何も見つからないので帰ろうとすると3階の窓に人影が見えた」
と、3階に不気味な話が集中しているのが気に入った。
雰囲気を出すために俺の家でこっくりさんをやって楽しんだあと12時くらいに現地へ向った。
男4女4の大所帯だったので、結構みんな余裕だったが東山ホテルの不気味な大きい影が見えてくると空気が変わった。
隣接する墓場から裏口に侵入できると聞いていたので、動きやすい服を来てこいとみんなに言っておいたが、肝心の墓場がない。
右側にそれらしいスペースがあるが広大な空き地になっている。
「墓なんてないぞ」
と言われたが、懐中電灯をかざして空き地の中に入ってみると雛壇のようなものがあり、変な形の塔が立っていた。
「おい、こっち何か書いてある」
言われて記念碑のみたいなものを照らして見ると
「殉職者慰霊塔」
ヒィィー
昭和3×年 誰某 警部補
みたいなことが何十と列挙されていた。
もうその佇まいといい、横の廃屋といい、女の子の半分に泣きが入った。
男まで
「やばいっすよここ」
と真剣な顔してい出だす始末。
俺もびびっていたが帰ってはサブすぎるので、なんとかなだめすかして奥にある沢を越えホテルの裏口に侵入した。
敷地から、1ヵ所開いていた窓を乗り越えて中に入ると部屋は電話機やら空き缶やら様々なゴミが散乱していた。
風呂場やトイレなど、汚れてはいたが使っていたそのままの感じだ。
部屋から廊下にでると剥がれた壁や捲くれあがった絨毯でいかにもな廃屋に仕上がっている。
懐中電灯が2個しかないのでなるべく離れない様にしながら各個室やトイレなどの写真をとりまくった。
特に台所は用具がまるまる残っていて、帳簿とかもあった。
噂だがここはオーナーが気が狂って潰れたという。
1階を探索して少し気が大きくなったので2階へ続く階段を見つけて、のぼった。
2階のフロアについて、噂の3階へそのまま行こうかと話していた時だ。
急に静寂のなかに電話のベルが鳴り響いた。
3階の方からだ。
女の子が悲鳴をあげてしまった。
連鎖するように動揺が広がって何人か下へ駆け降りた。
「落ちつけ。落ちつけって」
最悪だ。パニックはよけいな事故を起こす。
俺は上がろうか降りようか逡巡したが、ジリリリリリという気味の悪い音は心臓に悪い。
「走るな。ゆっくり降りろよ」
と保護者の気分で言ったが、懐中電灯を持っている二人はすでに駆け降りてしまっている。
暗闇がすうっと下りてきて、ぞっとしたので俺も慌てて走った。
広くなっている1階のロビーあたりで皆は固まっていた。
俺が着いたときに、ふっ、と電話は止った。
「もう帰る」
と泣いてる子がいて、気まずかった。
男たちも青い顔をしている。
その時一番年長の先輩が口を開いた。
俺のオカルト道の師匠だ。
「ゴメンゴメン。ほんとにゴメン」
そういいながらポケットから携帯電話を取り出した。
「こんなに驚くとは思わなかったから、ゴメンね」
曰く、驚かそうとして昼間に携帯を一台3階に仕込んでおいたらしい。
それで頃合をみはからってこっそりそっちの携帯に電話したと。
アフォか! やりすぎだっつーの。
もうしらけてしまったので、そこで撤退になった。
帰りしな師匠が言う。
「あそこ洒落にならないね」
洒落にならんのはアンタだと言いそうになったが師匠は続けた。
「僕たちが慰霊塔見てる時、ホテルの窓に人がいたでしょ」
見てない。あの時ホテルのほうを見るなんて考えもしない。
「夏だからDQNかと思ったけど、中に入ったら明らかに違った。10人じゃきかないくらい居た。上の方の階」
「居たって・・・」
「ネタのためにケータイもう一個買うほどの金あると思う?」
そこで俺アワアワ状態。
「あれはホテルの電話。音聞いたでしょ。じりりりりり」
たしかに。
みんなを送って行ったあと、師匠がとんでもないことを言う。
「じゃ、戻ろうかホテル」
俺は勘弁してくれと泣きつき、解放された。
しかし師匠は結局一人でいったみたいだった。
後日どうなったか聞いてみると、ウソか本当かわからない表情で
「また電話が掛かってきてね。出ても受話器からジリリリリリリ。根性なしが!!って一喝したらホテル中のが鳴り出した。 ヤバイと思って逃げた」
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