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『∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part35∧∧』より虚の中の男氏11話

2015.03.16 (Mon) Category : ホラー・怪奇現象・不思議現象

50:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/03(月)04:30:52ID:t7+sQ4id0
『捨て○』

T少年が雑木林で虫取りに興じていたところ、ヒビ割れた甕(かめ)のような物を見つけた。
甕の中を覗いてみると、弱々しく鳴いてすがってくる子犬がおり、Tは捨て犬だと思い家に連れ帰った。

何とか家族を説き伏せ、子犬を飼う許しを得たいTであったが、子犬の姿を見た母親は悲鳴をあげて泣きじゃくる。
母がそんなにも動物嫌いだとはつゆ知らず、Tは泣く泣く元の場所に子犬を返しに行った。
翌日、再びT少年が雑木林に赴くと、子犬は割れた甕ともども姿を消していたという…

「子供の頃、そんな事があったよねぇ」
大人になったTが実家に帰省した折に、悪戯っぽい笑顔で母に話しかけてみた。
Tの母はこの話を思い出すのに少し時間を必要としたが、やがて複雑な表情を浮かべてTの顔をまじまじと見た。
そして一瞬ためらった後、Tにこう切り出した。
「あんた、覚えとらんの?あれ…犬じゃなかったやろ」

では、何だったのか?Tは母の台詞に得体の知れぬ薄ら寒さを感じ、それ以上何も聞けなかったが、そんな気持ちとは裏腹に、あの日その時の記憶が鮮烈に脳裏に蘇ってくる。
「そういや、あいつ…何かを必死で訴えかけてたっけな。片言の英語で……」

(続きは『続きを読む』クリック)


 









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51:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/03(月)04:31:39ID:t7+sQ4id0
『甘露』

あるお爺さんが、山の畑で作業をしている最中、連れて来ていた孫娘の姿を見失ってしまった。
背が高く見通しが悪いトウモロコシ畑の中を、大声をあげながら必死で孫を探す祖父。
ようやく小さな影を見つけて駆け寄ると、孫は知らないおじちゃんに連れていかれそうになったと言う。
男の特徴を聞くうちに、かすかに覚えのある風貌である事をお爺さんは思い出す。

──お爺さんの少年時代は戦後間もない頃で、食べる物もろくに無い貧しい暮らしであった。
そんなある日、少年が空きっ腹をさすりながら畑で草取りをしていたところ、見知らぬ男を目にする。
男は鍔(つば)の広い大きな麦藁帽子を深々と被って、つぎはぎだらけのボロを纏っており、畑の脇にどかりと腰掛けると、クチャクチャと何かを食べ始めた。

どこかの浮浪者が流れて来たのかと思って少年は身構えたが、男は口元に笑みを浮かべて
「喰うか?」
と、黒い菓子のようなものを目の前に差し出した。
腹を空かせた少年が傍へ寄ると、男は手にしたものをスッと後ろへ下げ、ニヤニヤ笑いながらこう言い放つ。
「タダじゃ、やらん。お前の大切な物と取り替えっこだ」

少年は交換する物など持っていなかったが、美味そうな菓子を目前にして、つい首を縦に振ってしまう。
少年が男の横へ座り菓子を頬張ると、濃厚な甘味が口の中にわっと拡がり、畑仕事の疲れを一気に癒す。
礼を言おうと横を見ると、男は既にどこかへ去っており、少年は畑の脇でひとり甘味を噛みしめていた──

それから数十年。男との約束の事などすっかり忘れていた「少年」は、今回の事件で、菓子と交換する大切な物というのが可愛い孫娘である事を悟り、肝を冷やした。

明くる日、お爺さんは秘蔵の酒を持って畑に足を運んだ。洋行帰りの息子から貰った高価なものである。
「これでカンベンしてしてくだせぇや」
お爺さんは酒瓶の口を開けて、名残惜しみつつ畑の脇にすべて注いだ。
その酒の匂いは、どことなくあの黒い菓子に似た甘露な香りであったという。



62:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/04(火)04:08:10ID:45iJko9a0
『ふらふら岩』

昔、海辺に住む男が、山奥の里まで魚を売りに行っていた。
浜では掃いて捨てるほどいる雑魚でも、塩漬や干物にして持っていけば大変ありがたがられ、結構な小遣い稼ぎになったという。

ある日、いつものように男が魚を売りに行こうと山道を歩いていると、崖の上に大きな岩が見えた。
岩は風に煽られ、ふらふらと揺れて、今にも崖下の道に落ちそうな雲行き。

危ないと思った男は、岩が下に落ちてから行こうと、その場でしばらく待った。
しかし、岩はしんと静まり、なかなか下に落ちない。
思い切って通るかと男が歩み始めると、岩はまたふらふらと揺れ、すぐにでも落ちそうな気配。
慌てて男が後戻りすると、岩はぴたりと動きを止め、やはり、なかなか下に落ちない。
男と岩は、そんな事をしばらくの間繰り返していた。

男が道を通りあぐねていると、前から里の者らしき人が平然と歩いて来る。
男は危ないぞと忠告したが、里の者は何がだと首をかしげる。
あの岩が落ちそうだからと、男が崖の上の岩を指差すと、岩は跡形も無く消えていた。

里の者は笑いながら、川獺(かわうそ)に化かされたね、と男に言った。
何でも近くに住み着いている川獺が、たまにそんな悪さをするのだという。
もしやと、男が売り物の魚を入れている篭の中を見ると、魚は喰い散らかされて骨だけが残っていた。

取っ締めてやる!と男は地団駄を踏んで悔しがったが、里の者はよせとたしなめる。
何でも身篭った女がここを通った時などは、腹の子をまるまる持って行かれたと言うのだ。
川獺の仕業、というのは単なる憶測で、本当は別の何かの仕業なのかも知れぬ。
そう思うと男は居ても立ってもいられなくなり、空の篭を投げ捨て山を下りた。



63:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/04(火)04:09:53ID:45iJko9a0
『子持長持』

昔、人の良い薬売りの男が、山深い村を目指して険しい道を歩いていた。
ふと、傍らを流れる川に目を向けると、川上から古びた長持(ながもち)が流れて来る。
薬売りが川岸に駆け寄ると、長持は彼のすぐ目の前に流れ着いた。

薬売りは長持の中身が気になったが、釘でも打ってあるのか蓋はぴくりとも動かなかった。
長持を手繰り寄せてみると、思いのほか軽い。
この先の村人の持ち物ではなかろうかと思った薬売りは、長持を担いで村へ向かう事にした。

村に着いた薬売りが、野良仕事をしていた若い百姓に長持の事を尋ねると、
「…ああ、そりゃオラんとこのだ」
と、百姓は鍬を放っぽり長持を持って家に帰ってしまった。
早くに持ち主が見つかって良かったと、薬売りは気をよくしつつ、村のあちこちを訪ねて廻った。

しばらくして、薬売りが村から出ようとすると、五ツほどの小さな子供が袖を引く。
「どこの子です?」
と薬売りが問うても、村人たちは一様に知らぬと言う。
子供は
「もってけ、もってけ」
と薬売りの袖を引いて、村外れの粗末な家に案内した。



64:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/04(火)04:10:35ID:45iJko9a0
子供が導いたのは長持の持ち主であった百姓の家らしく、土間に例の長持が置いてあったが、百姓は留守にしているのか、いくら声をかけても出て来ない。
子供は長持の傍に立ち、
「もってけ、もってけ」
と薬売りにしきりに言い放つ。
何を持って行けと言うんだと、蓋が開けられた長持の中を覗くと、そこにはカラカラに干からびた人の骸…木乃伊(ミイラ)が静かに横たわっていた。

薬売りは薄気味悪く感じつつも、子供に促されるまま、木乃伊の入った長持を担いで村を出た。
山を下りる頃には、付いて来ていた子供の姿はいつの間にか消えていたという。

当時、木乃伊は薬の材料として珍重されていたので、薬売りはこれを金に替えた。
そして、それを元手に別の商いを始めたところ、店は大いに繁盛し、彼の一族は栄えに栄えた。
しかし孫の代の時に、祖父から聞いた長持の話をうっかり他人に漏らした途端に、跡取息子が神隠しに遭い、蓄えた金もすっかり無くなり、薬売りの家系はぱったりと途絶えてしまった。

長持は幾年もの間、この家の蔵に仕舞ってあったそうだが、家が潰れてからは行方知れずだという。
もしかしたら、またどこかの深山の川で、開ける者を探して流れ続けているのかも知れない。



83:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/06(木)04:32:19ID:WSm94Ugm0
『客人』

学生時代の友人にTという奴がいた。
Tの家は鬱蒼と生い茂った雑木林の先にある山の中の一軒家で、遊びに行くのが少し怖かった記憶がある。
実際にTは、家と街を結ぶ山道でいろいろと「変なもの」を見た事があるらしい。
視界の片隅に浮遊する生首のような物が見えたが、焦点をそちらに合わせると何も無いだとか、見慣れぬ子供たちから、獣の死骸に石をぶつけるのを誘われたりとか、まぁ、いろいろである。

そんなTが高校生の頃の話。
野球部に在籍していた彼は毎日のように帰りが遅く、家に着くのは日が暮れてからであった。
街灯もまばらで、申し訳程度に舗装された頼りない道を、自転車のか細いライトを頼りに懸命にペダルを漕ぎ、風でざわめく雑木林を振り切ると、ようやく我が家の明かりが見えてきてホッと息をつけるのだという。

しかしある晩、その明かりがTを出迎えてくれなかった事があった。
いつもなら一家団欒の頃で、テレビでも見ながらご飯を食べているような時間である。
ところが今日に限っては、闇夜に家のシルエットが浮かび上がるだけで、にぎやかな声も聞こえない。
玄関は開いている、が
「ただいま」
の声に返答は無い。
自分に内緒で外食にでも行ってるのかと、Tはかすかな不安を覆い隠しつつ、二階の部屋へと向う…

「…!!」
と声にならない声を出し、Tは後ろへ飛び跳ねて今にも階段から転げ落ちそうになった。
誰もいないとばかり思っていたが、薄明かりを灯しただけの暗い部屋に祖母・母・妹が鎮座していたのである。
妹は先まで泣いていたようで母の膝の上で寝息を立てており、祖母は数珠を手に何やら経文を唱えている。
何事かと髪の乱れた母に尋ねると、父の様子がおかしいと、よく分からない説明をした。

恐る恐る居間へ忍び寄ると、そこには大酒をかっ喰らいイビキをかいている父の姿。
辺りには割れた瓶や、魚の骨や肉のパックが散乱し酷い有様。生で食べたと思われる。
勤め先で何か嫌な事でもあって荒れたのだろうか?とも思ったが、それにしては異様な光景である。
父を揺り起こすと、意外にもいつもと変わらぬ呑気な口調でお目覚めのご挨拶。



84:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/06(木)04:33:26ID:WSm94Ugm0
Tは父に水を飲ませ、詳しく話を聞いた。
しかし、帰宅途中にバイクのハンドルが効かなくなり、草むらの中に突っ込んでから先の記憶が無いと語る。
居間の散らかり具合を見た父は、自分がやった事も忘れ、唖然としていたという。

翌朝、休日だった事もあり、Tは父と二人で事故現場に赴いた。
そこは緩やかな弧を描く道で、事故を起こすような場所には思えなかったが、Tの心の中には「変なもの」を見た時のような、じめじめとした嫌な気分が生じたそうだ。

「おお、あったあった」
と素っ頓狂な父の声に振り返るT。
しかし、目に入ったのはバイクを手にした父の姿だけではない。

バイクが転がっていた草むらの中には、地元の人々からも忘れ去られたような小さな祠(ほこら)が佇んでいた。
それは祠本体と中の像がひとつの石材から彫り出された簡素な物だったが、像の部分はおぼろげでよく分からない形。
風雨に晒されて削り取られた…というよりは、むしろ人為的に打ち砕かれたのではないかとも思える。
Tは祠の事を聞こうとしたが、父はバイクがカスリ傷で済んだ事にご機嫌で、祠の事など眼中にないご様子。

帰宅してからTが祠の事を祖母に尋ねると、
「口にしちゃならん!」
と怒鳴られ、それ以上聞くに聞けない。
やはり、あの祠は何かあるらしい。そう思ったTは、日を改めてまた例の草むらに行ったものの、生い茂った草に阻まれてか、再び祠を目にする事は叶わなかったという。
結局、事故と父の豹変、そして祠にどんな関連があったのか分からないまま、T家にいつもの日常が戻った…

ちなみに、この事故から一年くらい経って、Tに父からバイクを譲ってやるという話があったが、祠と関わってしまったあのバイクには何となく乗りたくなかったそうで、Tは学校を卒業するまで、雑木林の先の明かりを目指して懸命にペダルを漕ぎ続けたのである。



190:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/24(月)02:30:20ID:2IQ21wC10
『失礼しました』

H氏が山中を散策していたところ、和式の便器がぽつんと置かれているのを目にした。

不法投棄かと思ったH氏はにわかに腹が立ち、便器を軽く足で蹴った。
しかし便器は、雑草が生い茂る地面に固定されているかのようにぴくりとも動かない。

少し奇妙に思ったH氏だったが、それ以上興味も湧かず、その場から立ち去ろうと踵を返した。
すると、背後から「ジャーーッ」と水を流す音。
振り返ると便器は姿を消しており、辺りにはラベンダーの香りが漂っていたとか、いないとか…

帰りの車中、やけに臭うなと思って靴の裏を見ると、そこには何かの糞がベッタリこびりついていた。
山では何度かおかしな体験をした事のあるH氏だったが、この時ばかりは閉口したという。



191:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/24(月)02:30:59ID:2IQ21wC10
『赤い実』

ある村の小僧が山の中で種を拾った。小僧はそれが何の種であるのか判らなかったが、畑の脇に埋め、早く芽が出ぬものかと、毎日遠くから水を運んで与え続けた。
そんな小僧を見て、山から下りてきた赤ら顔の獣が
「芽なんか、出てくるはずがない」
と、笑っていた。

そのうち、種から芽が出た。小僧は早く木にならぬものかと水を与え続けた。
獣は
「木になんか、育つはずがない」
と、また笑っていた。

そのうち、芽が木になった。小僧は早く実がならぬものかと水を与え続けた。
獣は
「実なんか、なるはずがない」
と、またまた笑っていた。

ついに、木から実がなった。小僧は早く実が熟さぬものかと水を与え続けた。
獣は
「そんな青い実が、熟すはずがない」
と笑いながらも、舌なめずりをしていた。

しかし実は青いままで、なかなか熟さなかった。それでも小僧は木に水を与え続けた。
獣は業を煮やし
「もう、いいだろう」
と木にするすると登り、実をもぎ取って一口かじった。

すると獣は、青い実のあまりの渋さに悶絶し、枝から足を滑らせ地に堕ち、ぴくりとも動かなくなった。
獣の赤い顔から血の気が引き、見る見るうちに土色に染まる。
やがて木の下のそれが土に還ると、青い実は獣の顔のように真っ赤に染まり、その内に甘みを宿した─

柿の実が赤くて甘いのはそういう訳である、とある地の民話は伝える。
しかし、赤ら顔の獣というのは猿の事であろうが、何故そんな遠回しの言い方をするのか?

この話をしてくれた老人に聞いてみたが、翁は何故かうれしそうな顔をして、人身御供を神に捧げた太古の農耕儀礼や、村の無法者を神事に供した言い伝えなどが、このような民話に転化したのではなかろうかと語ってくれた。

ほのぼのとした民話の中にも、少し見方を変えれば怖さが潜んでいる事を認識した瞬間だった。
今でも柿をかじる度に、あの老人の赤くひび割れた笑顔が思い浮かぶ。



201:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/28(金)05:02:56ID:VL1lHe7G0
『山蛸』

空腹の蛸(タコ)は、自分の足を食らって飢えをしのぐという。「山蛸」もまたそうであった。
山蛸は森に潜む怪異で、普段は鳥獣を捕らえて食っているが、獲物が獲れぬと海の蛸と同様、八本ある足を口にして食いつなぐのだ。

その姿は、頭は人に似て、八本の足は猪のような太い毛で覆われて蜘蛛のような形であり、木々の間を飛ぶように移動し、樹上から獲物に狙いを澄ませ八本の足で捕らえて、人に似た口で蕎麦でもすするかのように食らう、という。

人を襲う事は少なく、獲物が獲れるうちは熊や狼などの肉食獣と何ら変わりは無いのだが、糧が得られぬとなると、己の足を一本、また一本と、蕎麦をすするように食う。
他の動物の肉を食えば足はまた生えてくるというのだが、しかし、自分の足をすべて食い尽くすまでに獲物を捕らえる事が出来ないとなると…やがては、自分の頭をすすって食べるのだそうだ。

頭まで食べつくした山蛸は、口だけがぽつんと残る。
飲み込んだモノがどこへいくのかは、人の理解を超えておりよくは分からない。
そして残された口は、その場から遠くへは行けずに周囲の空気をすすり続けるのだ。
もし、山中で風向きとは違う方向に草木の葉がなびいていたら、絶対にその方向を見てはいけない。
見てしまったら、口だけの山蛸に吸い込まれ、二度と帰れなくなってしまうから…

と、山住まいの老人が、子供の頃に教わったという話をしてくれた。
おそらく、山で獲物を獲り尽してしまわないための戒め話であったのだろう、と老人は振り返る。
山林での神隠しの理由付けや、ムササビなどが妖怪視された事にも何か関連があるのかも知れない。



202:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/28(金)05:04:19ID:VL1lHe7G0
『断たれた村』

元号が大正に変わるか変わらないかの頃、某とかいう貧しい山村に亀裂が生じた。
村を中央から二つに引き裂くかのように線路が敷かれたのである。近隣で採れる石炭を運ぶためだったらしい。
分断された村は、線路より南側を「前○○」、北側を「裏○○」と呼ばれ、区別されるようになる。

区別はやがて差別となり、根拠の無い憎しみを生んだ。
特に北側の「裏○○」の人間がその標的となり、北の女は谷の陰気に侵され丈夫な子が生めぬだとか、羽振りの良い北側の者を見ると何々憑きの家だからだとか、そんな事が平然と言われていたと今に伝わる。
元々、漠然と存在していた差別意識が、地形的な境界が生まれた事で、より明確に表に出て来たのだろうか。

そんな殺伐とした中、南と北の男女が恋に落ちる。時は敗戦の色が濃厚になる太平洋戦争末期。
男は南側の人間で有力な富農の息子、女は北側の人間で母親と二人で他所の畑を耕す身。
二人は人目を忍んで密かに会っていたが、それが知れるのにそう時間はかからなかった。
当然のごとく周囲から猛反対を受け、二人は引き裂かれる事になる。
奇しくも丁度その頃、男に召集令状が届き、二人に抗う術は無かった。

男が戦地に赴いて間も無く戦争は終わった。しかし不運な事に、男は帰って来れなかった。
男の家族はそれを女のせいにした。北の者と関わってしまったばかりに禍が降りかかったと言うのである。
南側の人間から矢継ぎ早に責めたてられ、女は家に篭りきりになった。
同じ北側の人間もかばいきれないほどの、弾圧と言っても過言ではないほどの叱責であったという。

幾月か経った後、女は子を産み落とす。
それが誰の子であるのかは明らかだったが、戦死した富農の男の家族はつとめて無視した。
それどころか、夜中に女の家に押し入ろうとする不審な者も見られた。
幸いにも北側の近所の者が通りがかって事無きを得たが、身の危険を感じた女は赤子を抱いて北の山に消え、二度と村に戻る事は無かった。
それからというものの、山から吹き降ろす風に乗って、悲しげな子守唄が聞こえてくるようになったという…



203:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/09/28(金)05:05:23ID:VL1lHe7G0
後年、富農の家の子孫は山に塚を建てて、無念であっただろう女の御霊を弔ったらしいが、この地の過疎化とともに、その家も途絶えてしまったそうである。
村を断った線路も今は朽ちた枕木を晒すのみで、もう、静かな山にいらぬ喧騒をもたらすような真似はしない。

この山村を訪れたK氏が携帯で知人に連絡しようとしたところ、電波が届いていないらしく圏外であった。
ところが、線路を越えてしばらく歩くと、アンテナが微弱ながら反応した。
先の話を聞いた直後で、随分と皮肉なものだなと思いながらも、それが北側であったのか南側であったのかは深く胸には留めないで、K氏は寂れた村を後にした。



237:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/10/01(月)04:19:22ID:TCGogr410
『這う指』

ある山の工事現場。
昼の休憩中、作業員の男が一服しようと思いポケットの中をまさぐると、何やら生暖かいものが触れた。
つまんで取り出すと、それは人の物らしき、指。

「ひゃっ!」
と男は年甲斐も無く少女のような悲鳴をあげ、それを投げ出す。
指は生まれたての小動物のようにのた打ち回り、やがて雑草の上を這って茂みに消えた。
「どうした?」
と駆け寄る同僚に、一部始終を話す男。
「疲れているんじゃないのか。早めに上がったらどうだ?」
同僚は気遣う。
しかし、男はその言葉を払いのけ、愛する家族のために疲れの取れぬ体に鞭打ち仕事に戻った。

その日の午後の事である。男が事故に遭い、指を一本失うはめとなったのは。

「あの這う指は、俺の物だったんだな。ちゃんと捕まえてりゃ、切らずに済んだのかもしれない」
作業員の男は病床でそう語った。
見舞った同僚は、まだ疲れが取れてないんじゃないのかと思ったが、口には出さずにおいたという。



238:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/10/01(月)04:20:11ID:TCGogr410
『停留少年』

ある夏、Kは自転車で近隣の山々を巡っていた。ちょっとした小旅行のつもりだったと言う。
ところが悪路でパンクしてしまい、Kは自転車を押して湯気の立つ道を歩き続けるはめになったのである。

途中、ある山村へ続く道路に差し掛かり、廃線になっているはずのバスの停留所のベンチで、大きく膨れたスポーツバッグを抱えた少年が座っているのを目にした。
休憩をしようとKもベンチに座り、汗を拭きながら水を飲む。
少年はKを気にも留めず、何やら遠くを見つめているようだった。

「ここ、バス来ないよね?」
一息ついたKは少年に声をかけてみた。
が、彼の眼差しは遥か彼方で、Kの事など眼中に無い様子である。
この路線が廃止されたというのは、地元のニュースで特集していたのを見たので間違いは無いし、辺りを見回しても、時刻表などは取り除かれて周りは雑草だらけ。バスが来る気配は微塵も感じられない。

そのうち、揺らめく道路の向こうからエンジン音がしてきた。その音に気づき、少年は停留所から身を乗り出す。
しかしそれはバスではなく、普通の常用車。少年はガックリうなだれて再びベンチに腰掛ける。
そして、篭った声でブツブツと文句…というよりは恨み言に近い言葉を、過ぎ去る車に浴びせかけるのだった。

(何も恨むような事ではないだろう)と思っていると、また車が向かって来る音。
少年は身を乗り出し、バスではないと分かると、ベンチに戻り恨み言。
Kの休憩中の間に、その一連のアクションが何度か繰り返された。



239:虚の中の男◆AFcPKj5UhQ:2007/10/01(月)04:21:01ID:TCGogr410
疲れも取れ、少年の行動も馬鹿馬鹿しく思えてきたので、Kはそろそろこの場を立ち去ろうとした。
ちょうどそこへ、地元の農家の人らしき小父さんが軽トラックでやって来て、停留所の少年に声をかけた。
「○○、また待っちょるんか。もう、バスは来んて言いよろうが」
やはり、彼はバスを待っていたのだ。話しぶりによると、いつもこんな調子らしい。

この小父さんが気さくな人で、Kのパンクした自転車を見て
「ウチで治してやる」
と言うや否や、軽トラに自転車を積みこみ、Kを助手席に押し込んだ。

あの少年の事を尋ねると、小父さんは
「奴ぁ、これやけん」
と人差し指を頭の横でグルグル回して見せた。

小柄なので少年だとばかり思っていたが、実はもう20代の青年だそうで、
東京の大学に進学したものの、頭が良すぎる故に人生に思い悩み、心を患って田舎に帰って来たという。
普段は実家の畑仕事を手伝っているが、時々発作的にああして遠くに旅立とうとするそうである。
小父さんは軽い口調で話していたが、まだ多感な時期のKはひどく複雑な心境になった。

実を言うと、隣町まで行けばバスも汽車も出ていて、そこまで歩いていけない距離ではない。
村を出ようと思えばいつでも出られるのに、「少年」は停留所で来るはずのないバスを待ち続ける。
いや、どこにも連れていかれる心配がないからこそ、いつまでも待ち続けていられるのではないか?

Kはそんな何の得にもならない憶測が頭に湧いたが、すぐにそれを払いのけた。
そして、治してもらった自転車を手で押し、夕立で少し涼しくなった道を歩き始めた。
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Title : 無題

身に覚えのない暴力がカワウソを襲う
捨て犬って結局なんだったんだろう

そのた 2015.03.17 (Tue) 11:44 編集

Re:無題

捨て子…かなやっぱり
母親の態度から重度の畸形の。

2015.03.18 20:33

Title : 無題

最初のいくつかの話、日本昔話にありそう。

ネフェルタリ 2015.03.18 (Wed) 05:28 編集

Re:無題

怪談って言うよりも民話っぽいよね

2015.03.18 20:36

Title : 無題

3番目は鯖くさらかし岩かと思って読んでたら違った

NONAME 2015.03.18 (Wed) 20:42 編集

Re:無題

長崎のあれは怪談っていうよりも奇景ですな。
落ちてきそうで怖い。

2015.03.20 18:59

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